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俺の名前はシオン
人は皆俺の事をこう呼ぶ。
───「「勇者」」と。
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「き、貴様!今わしをバカにしたような笑い方をしたな!」
魔王はまたも怒ってらっしゃる。
「ご、ごめん。でもお菓子ってブフっ!」
こんなにもツンツンな幼女が早く戦いを終えたい理由がお菓子を食べたいからってもうギャップ萌えもいいところだろ
「ええい!もうよい!お主が来ぬならわしからいくぞ!」
痺れを切らした魔王は俺に向かって突っ込んで来ようとしていた
「ま、まてまてまて!」
そんな魔王に対し俺は両手を前に出し制止する
「なんじゃ?今更命乞いか?」
「いや、そうじゃなくて。俺は君とは戦いたくない」
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子供好きの俺からすればいくら魔王であれ幼女の姿をした女の子に剣を突き立てるようなことはしたくない
「なんじゃ貴様。わしを舐めておるのか?」
ギロッとした目つきで俺を威嚇する魔王
だが、怖くない。
むしろ可愛い
その鋭くなった目つきがまるで子猫が威嚇しているかのようにしか見えなくて仕方がない
「そういうことでもないんだよ」
「じゃあ何が不満なのじゃ?」
魔王は恐らく早くお菓子を食べたいのであろう
先程からずっとソワソワしている
いや、可愛すぎかよマジで
「はぁ、不満とかでもなくてだな
実はな魔王。俺は──」
俺はゆっくり深呼吸をし魔王にこう言い放った
「子供は好きなんだ」
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「ん?だからどうしたのじゃ?」
魔王は首を傾げ半ば上目遣いで俺を見上げて質問してくる
「だから。だからさ、だから俺は」
「君を倒せない」
そして俺は再び深く深呼吸してこう言い放った
「魔王が幼女だから倒せない!」
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「....貴様は一体何を言っておるのだ?」
俺の発言に対し少し間を開けて喋る魔王
「いやごめん。俺は幼女を痛ぶる趣味はないんだよ」
「貴様。またもわしをバカにするか。」
魔王の肩が小刻みに震えてる
あれれ?これ怒らせちゃった?
「ごめん!!そんなつもりは──」
その時気付いたがさっきまでと桁違いに魔王の魔力量が上昇している
「ワシをそこまでバカにしたのじゃ。貴様はただではすまさん」
魔王様は随分ご立腹のご様子。
まずいなこの魔力量は俺の倍はある。
こんな見た目でも魔王ってことなのか。
「覚悟しろ勇者っ!」
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俺の発言に怒った魔王はもうやる気満々だ
やらかしてしまったな。
後悔先に立たずとはまさにこのことだ。
「仕方ない。スキル急所感知」
俺はスキルを行使する
が、案の定弱点を見つけることができない
「やっぱり弱点対策はしてるんだな」
さすがは魔王って言ったところか
「何を呑気にしておるのじゃ後ろが隙だらけじゃぞ」
気づけば魔王は目にも留まらぬ速さで俺の背後を取っていた
「しまった!」
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魔王は俺に向かい強烈な蹴りを蹴り込もうとしている
そんな魔王に対し俺は聖剣カラドボルグ抜きその攻撃を受け止める。
だが、
剣で威力を押さえ込んだものの俺の足は少し浮き上がり吹き飛ばされる。
「グッ。この威力はまともに食らったらやばい。」
魔王の蹴りは最早凶器としか言えなかった。
まともに食らえば内臓の一つや二つが破裂するだけでは済まないだろう
そう思うほどの強烈な一撃だったのだ。
魔王の一撃を耐え反撃に移ろうと試みる───が時すでに遅しだった。
気づけば魔王は既に吹き飛ばされた俺の懐に潜っていたのだ。
「終わりじゃ勇者!」
魔王の右手の拳に漆黒とも呼べるドス黒い魔力が浮かび上がりその拳に纏わりつく
「闇魔法 デスブロウ!」
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魔王から放たれたデスブロウの威力は絶大で俺の体はくの字に曲がり魔王城の天井目掛け吹っ飛ばされる
「ん!ぐはっ!」
吹っ飛ばされた俺はなんとか立て直す
だが、魔王の拳の威力は絶大だった。
「(やばいやばいやばい。これは本気でやばい。 内臓をやられた。)」
息が出来ない。
みぞに渾身のストレートを打ち込まれた時なんかの比にならないレベルの激痛
息ができないほどまでの威力。
「はあはあ。」
俺は息を荒立てる。
やべーぞまじで
この子まじで強いわ。
どうしても魔王に勝てるビジョンが思い浮かばない
それ程までに俺と魔王の戦力差を感じた。
「なんじゃ?もう終わりか?
つまらぬのう。 それでも貴様は勇者か?」
魔王は呆れ気味で悪態をついている
だが、俺はまだ諦めてはいない
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「まだ...終わりじゃないぞ」
俺は今にも倒れ込んでしまいそうなボロボロの体にムチを打ち体を起こす
「見せてやるよ魔王。勇者の技ってやつを」
俺は聖剣カラドボルグを構える
そして
──こう唱える。
「光魔法 閃光。」
その刹那───。
俺は魔王の前から姿を消した。
「なに!?どこに行ったのじゃ!」
俺が突如消えたことに対し驚きを隠せずにいる魔王
その瞬間俺は魔王の背後をとっていた
俺は聖剣カラドボルグを魔王の首元に軽く押し当てた。
「これで俺の勝ちだね 」
「な、何故きさまがそこにおる!?」
自分が背後を取られたことに困惑する魔王
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「簡単な話さ。勇者のみが使える固有魔法である光魔法を使ったんだよ」
俺は魔王に教えた。
女神の加護により特殊な加護を持つ保有者。
つまり勇者である俺だけが使える対魔王魔法である光魔法を使ったことを
「そうか。これが光魔法か。わしは肝心なことを忘れておったようじゃ....勇者が何故魔王に対抗できるのかを」
「いーや。ぶっちゃけ俺も結構ギリギリだぜ。体も動かねえーわ。」
「ふん。わしの負けじゃ。殺せ」
魔王は自身の敗北を潔く認めた
だけど俺はそんな魔王に対しこう言う
「殺しはしないよ」
俺は魔王を殺せない理由がある
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それは
魔王が幼女だからだ!
「はあ。まったく貴様はつくづくわしをバカにしてくれるのう」
魔王は少し微笑んだ顔でため息をついた
その微笑んだ顔はまるで魔王とは思えないほど。
言うなればそれは天使のような可愛らしい表情だった。