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俺の名前はシオン
人は皆俺の事をこう呼ぶ。
───「「勇者」」と。
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部屋に戻った俺とリアは食事をしていた
「やっぱり肉が1番だな」
俺が食べているのはウサギの肉だ
この世界には魔物の他にも普通の動物も存在している
魔物の肉は食えないことはないが正直肉は硬いし臭くてまずい。
その点動物肉は多少の臭みがあるものの
普通に美味しく食べられるので動物肉が一般的な食用肉として食べられている
「リアーおまえもお菓子ばっか食ってないで肉とかも食えよ」
「わしはお菓子で十分なのじゃ」
リアは基本的にお菓子しか食べない
俺も色々と工夫をして飯を食べさせようとしたが全て失敗に終わっている。
まあ魔族なだけに栄養という概念が存在しないがため食べる必要性がないのかもしれんが
そんなこんなで俺は飯を平らげ新しい魔法の習得のために
知恵を振り絞っていた
「んー。何かないかな」
俺に今1番必要なのは火力のある上位攻撃魔法だ
恥ずかしいことに俺は火力のある魔法を持っていない。
リアとの実戦で使ったシャイニングブレスやシャイニングアローはあくまでも中位魔法だ
俺の戦闘スタイルはあくまでも相手の隙をつくりその隙をつくものである。
それに今まで強敵とやりあっては来なかったからそれ程火力のある魔法を必要としていなかった
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だが、今後はフランやその他の強大な力を持つ魔王達と戦わなければならなくなる
奴らには俺の戦闘スタイルは通用しない
奴らと対等に戦うには火力のある上位、いやあるいは最上位魔法を覚える必要がある
「さーてと。どうしたもんかな」
俺は本を手に取った。
その本は俺とは別の勇者の物語が描かれている本。
その本を開き読み始めてみた
そこにはかつての古の勇者が魔法を行使した描写が書かれてあった
「上位魔法 セレスティアルレイ?」
天空から大地を貫く光線を降らす
凄まじい威力を持つ
これだな。これなら使える
俺はすぐに行動にうつした
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──
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そして10時間の激闘の末。無事に習得することができた
「はぁ。疲れた」
魔法習得の際は条件がある
一定のレベルに到達していないものは上位魔法を習得することができないってな感じだ
「さあて、今日はもう遅いし寝るかな」
ベットがある寝室へと向かった
そこにはもう眠りこけてしまったリアがいた
「おお、今日のご褒美はこれですか女神様」
上位魔法取得のご褒美
俺はこの寝顔をそう受け取ることにした
ベットに入りリアの横で横になる
「むにゃ」
リアはいつもと変わらない様子で気持ちよさそーにねている
その寝顔を見るのは俺の毎日の日課だ
「ねむい」
俺に対して睡魔が襲ってくる
すでに意識が飛びそうになっている
「明日は上位魔法を試してみるかな」
俺はリアの寝顔を見ながら眠りについた
「おやすみリア」
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翌朝。
俺は外から聞こえる騒がしい騒音で夢の中から現実へと引き戻される。
「なんだ?」
どうやら騒音は城の外から聞こえてくる
俺は部屋の窓からそっと外を覗いてみた
するとそこには数で言えばおよそ4000人程の鎧に身を包んだ兵士達がいた
「あれは王国軍か」
そう。それは俺の自国の兵士達だった
恐らく俺の帰りの遅さをあんじてここまで来たのだろう
俺はカラドボルグを手に取り下へとむかった
「周囲に魔物の気配はありません!」
「ごくろう」
声が聞こえる。
あれは
王国戦士長であるクライヴだ
純白の鎧に身を包み大剣を背中に担いでいる
彼の剣は国内最強と言われている
恐らくだが勇者である俺も剣のみでの勝負だと負けるだろう。
それほどまでに強い男だ。
しかしまずいな。
そのクライヴまでもが来ている
もし仮にリアと鉢合わせれば大惨事になりかねない
そんな状況を解決するために俺はどうすればいいかを考えるが中々答えが出ない
すると
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「シオン様?そこにいるのでしょう?」
とクライヴが喋っている
「あちゃー。バレちゃったか」
俺は仕方なくクライヴの前に姿を現し近づく
「シオン様。魔王はどうなされたのですか?」
「ああ。魔王ね。倒したぞ──」
冷や汗をかきながら何とか誤魔化そうとした
だが──
「シオンどこに行っておるのじゃー」
目を覚ましたリアが俺を探しに眠そうな目をゴシゴシと擦りながらやって来てしまった。
これは非常にまずい
「シオン様もしや──」
少し間を開けて何かを喋ろうとしている
やばい。感づかれたか
くそ、もうどうにでもなれ!
と決意したがクライヴの返答は予想外だった
「ついにこんな幼気な少女に手を出したんですか?」
「....えっ?」
クライヴの発言の意図がよく分からなかった俺はリアの方をよく見てみた。
すると寝起きのせいなのかリアの着ているワンピースの肩の紐が垂れ落ちて少し不健全な格好をしていたのだ
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「あっ!ばか!ち、ちげーよ!」
俺は必死でごまかした。
仮にも俺は勇者だから立場ってものがあるからね
魔王討伐に向かった勇者が幼女に手を出したなんて広まれば俺は社会的に死ぬことになる。
それは何としても避けなければならない
「じ、実はだな。こないだ魔物に襲われてるのを見つけて助けてやったんだ。」
少し愛想笑いを混じりつつあたかも自然のように振る舞った苦し紛れの言い訳だが通るか?
「何を言っておる?魔王である我が魔物なんぞにやられるわけなかろう」
あ、こいつやっちまった
「あちゃー。」
俺は必死にリアの口を塞ごうとしたが時すでに遅し。
「シオン様、その少女が魔王なのですか?」
クライヴの目つきが変わり剣の柄に手を当てた。
「いやいや!ち、ちがうんだ!」
「確かによくよく見ればその者から魔族特有の邪悪な魔力が溢れてますね。」
クソー。バレてしまった
仕方がない言い訳はもう無しだ。
「クライヴ!よく聞け!こいつは魔王だが別に悪い魔王じゃない
だから話せばわか───」
「シオン様。あなたは勇者でありながら魔族をかばうのですか?」
クライヴの目はマジだ
本気で俺をやる気でいる
「仕方がありませんね。これより魔族を庇った反逆者を始末する。全兵剣を抜け!」
クライヴの合図と共に兵士たちが次々に剣を抜き構える
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「ちっ、流石の俺もこの兵士の数プラスにクライヴ相手じゃちときつすぎる..」
一番厄介なのは数の多さだ。
どうするどうすればいい。
「なんじゃシオン。ピンチなのか?」
リアが俺の隣に並んでくる
「ああ。お前のおかげでな」
俺が魔法を使えばこいつらは倒せるだろう
だが、それだと殺してしまう可能性がある
殺さずに倒す方法
何かないか──
あ!
閃いた。
「リア。お前が兵士たちをやってくれ。くれぐれも死なせないように」
リアは打撃系魔法の使い手だ
体術は恐らく俺より慣れているはず。
俺の剣で切るより加減したリアの打撃の方が死ぬリスクは減る。
「ふん。注文が多いやつじゃの。まあよい任せておけ」
リアは兵士たちの元へと飛び込んでいく
「頼むぞ。さてとクライヴ俺たちもやり合うか」
クライヴは手強い
剣のみでは勝てない
だからこそ悪いがお前には魔法を使わせてもらうぞ。
「行きますよシオン様」
「来い!クライヴ!」
そして今戦いの鐘は鳴った
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「それではいきますよ!」
そう言うとクライヴは自身の大剣を取り出し俺に目掛けて大剣を投げてくる
その投げられた大剣をかわして俺は距離を詰める。
が、投げた大剣は綺麗にuターンしブーメランのごとく俺の背後に再び飛んでくる。
「ちっ、鬱陶しいな」
俺はその大剣をひらりとかわした
かわされた大剣はそのままクライヴの手元へと戻っていった。
「はあ!」
大きな声で自分に喝を入れ俺目掛けて剣を振ってくる。
「くっ。」
俺は聖剣カラドボルグをすかさず鞘から抜きその攻撃を受け止める。
その瞬間辺り一面に鉄と鉄がぶつかり合った音が響き渡った
「相変わらず速いなクライヴ!」
クライヴが王国内で最強の剣の使い手と言われる所以はその剣速の速さにある。
大剣使いは本来威力を増す代わりにその大剣の重さから動きと速度が落ちる。
だが、クライヴはその大剣を片手で使いこなすことが出来るほどの腕力を持っている。
ゆえに大剣を使用して威力を増し
その上移動速度や剣速も落とさない
速さ、威力この二つを兼ね備えた斬撃。
そして最強と呼ばれる剣の技術。
それ故にクライヴは王国内で剣の最強の使い手と言われている。
「光魔法シャイニングアロー!」
俺は離れ際に魔法を打ち込んだ
だかしかしこれはあくまでも虚勢だ
接近戦では間合いを取った時が一番隙が生まれる
その隙をカバーするために俺は魔法を放ったのだ
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「ちっ。やっぱクライヴの大剣は厄介だ」
降り注がれた光の矢により辺りは砂埃が舞い散る
「さすがはシオン様。ですが!まだ甘いですよ!」
砂埃の間からクライヴが姿をあらわした
間合いを取った俺との距離を詰め再び俺に剣を突き立てようとしている
「まずい。光魔法シャイニングブレス!」
距離を詰めさせないために
そのクライヴに対し俺は再度魔法を打ち込んだ
「これじゃ防戦一方だな」
さすがは王国一の剣の使い手と言ったところだろうか
俺との差に少し差が開いている
「仕方ねえな」
クライヴを倒すには剣術だけではまず不可能だ
だからこそ俺は切り札を使うことを決意した
「少しだけ時間を稼がないと」
「光魔法シャイニングアロー!」
三度光の矢が降り注ぎ
辺り一面に砂埃が舞う
「その魔法は通じないと分かっているでしょう!」
砂埃をかき分け姿をあらわすクライヴ
しかしクライヴはそこで俺がたいして効きもしない魔法を放った理由を理解した
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「何だこれは!」
「クライヴー!これは今までの魔法とは威力は桁違いだ!加減はするが精々死なねー様に努力しろよ!」
「光魔法 セレスティアルレイ!」
俺が使った魔法それは昨日取得したばかりの上位魔法だ
俺の唱えた言葉と共に上空より強い光が浮かび上がり辺り一面を神々しい光が包み込む。
「これは──上位魔法!いつのまにそんな魔法を!」
クライヴは俺が使った魔法が上位魔法だとすぐさに理解した
「まずい、体制を整えなければ!」
クライヴは自身が持つ大剣を顔の上で構え空に向け上位魔法への守りをとった
「いっけー!」
上空より浮かび上がった光がクライヴ目掛けて光線となり降り注ぐ。
その数は最早数えることが不可能な程の量の光線だった
「くっ!」
幾度となく凄まじい威力を持つ光線が上空から放たれ大地を貫く
まるで大地の怒りかと思わせるほどの地面の揺れに何度も何度も降り注ぐ光線が地面を貫き抜けあたりに鳴り響く。
「はあはあ。どうだ!?」
ある程度の時間降り注いだ光線は次第に収まっていった。
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「はあはあはあ。さ...すがですシオン様」
俺の目の前にいたクライヴは片膝を地面につき今にも前屈みに倒れこもうとする体を大剣を地面に突き刺し何とか倒れまいとしている。
だが、クライヴの着ている鎧はもうボロボロだった
その鎧を見てクライヴが負ったダメージのでかさを俺は理解する
「終わりだクライヴ。俺の話を聞け」
「まだ魔族をかばう気ですかシオン様」
クライヴの目は既に焦点があっていなかった
恐らく気迫だけで自我を保っているのだろう
「あいつは魔王であっても魔王じゃないんだよ」
「何を言っておられるのですか..」
クライヴのダメージ量は既に限界値を超えていた
大剣を握っていた手が大剣から離れ前のめりになってクライヴはその場に倒れ込んだ
「とりあえず勝ったな 」
激戦の末勝利した俺も魔力を使いすぎた
足がフラフラしている
だが、リアの方も気になる
「リア!そっちは──」
リアの方に視線を向ける
が、心配は無用だった様だ
「ふう、4000人を死なさず倒すのは流石に骨が折れるのう」
リアの体には傷ひとつ付いていない
それどころか着ている服も一切の汚れもない。
それはなにより4000人相手に圧倒した証拠だった
「はあ、リアとりあえずクライヴを城内に連れて行って回復させるぞ」
クライヴの誤解を解く必要がある
そのためにはまずクライヴの意識を取り戻させる
話はそれからだ