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俺の名前はシオン
人は皆俺の事をこう呼ぶ。
───「「勇者」」と。
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「ここ...は?」
数時間後のことだ
ポーションや回復魔法を止めどなく飲ませたりかけたりしたおかげでクライヴは意識を取り戻した
「気がついたか? ここは魔王城の中だ」
あれから俺とリアは手分けしてクライヴをはじめ王国軍の兵達の治療をして回った
王国軍の兵達のリアの加減された攻撃により傷は浅かった為に既に目を覚ましていた
「私は、負けたのですね...」
クライヴの身体は完全にとは言わないものの治りつつある
だが、さすがに上位魔法を食らった後では本調子とは程遠い様子だ
「クライヴ、こいつは決して悪い魔王じゃない。」
「何故シオン様はそこまで魔王を庇われるのですか?」
クライヴの質問の意図はもっともだ
俺が勇者である以上魔王を倒すとはまさに勇者にとっての天命
その天命に反して魔王を庇うなどは本来あってはならないことだ
「クライヴ、実はなお前に話さなければならないことがある。」
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俺はこれまでの経緯についてクライヴに話した
魔界のこと然り他に5人の魔王が存在すること、そして魔族がなぜ人間界を支配したがっているのか
ありとあらゆることを包み隠さず話した
「いいかクライヴ、リアの力はいずれ俺たちに必ず必要になる
魔界の魔王達を倒す為にな」
現状、人間界の制圧が奴らにとっての最も最優先に達成すべき目的
なれば、いずれ必ず人間界に攻めてくることになる
そうなった時俺たち人間の力ではどうしようもない力の差が生まれるはずだ
そのカバーに必要となるのがリアの存在なのだ
「なるほど 話は理解しました。この魔王が悪い魔王ではないことも.....どうやら本当の様ですね」
クライヴは近くに横たわっている兵達を見て理解した
魔王であれば無慈悲にここに攻め入った人間、つまりこの兵達を一匹残らず狩るはずだ。
だが、リアはそれをしなかった
それが何よりリアが悪い魔王ではないという証拠だった
「わかってくれたか?」
「はい。シオン様の話は信じましょう。 ですが、これからどうするおつもりでしょうか?」
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これからどうするのかとクライヴは聞いてくる
ぶっちゃけた話、今はどうすることもない
というより、どうすることもできないのだ
それ程までに俺たち人間は今はまだ力がない
だからこそ
「───人間界を一つにまとめる必要がある。」
今の人間界は下らない国同士のご競り合いが続いている。
そんな人間界の国々を一つにまとめ上げお互い助け合い力をつけいずれ人間の全軍を持って魔界に攻め入る
どう攻めるのか?それは簡単だ
リアは魔族であり転移魔法を使えるはず
そのリアの転移魔法で魔界に攻め入り奴らを奇襲し叩く。
それが俺が今考えているシナリオだ。
「さすがですねシオン様。分かりました私も色々と動いてみます」
「ああ、恩にきる まあ、クライヴ今は休め」
「それではお言葉に甘えて少し眠りにつきます。」
クライヴはそのまま目を閉じた
魔族に勝つ方法が俺はまだ詳しくは思いついていない
何かしらの方法を一刻も早く見つけ出さなければ
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約10日後──
クライヴ達の調子もいい感じに回復していた
「もう行くのか?」
「はい、あまり長居しすぎては国王陛下様が心配なさりますので」
クライヴ達は既に帰国の途につこうとしていた
「じゃあ、またな 陛下にもよろしく言っといてくれ」
「はい、それでは我々はここで」
クライヴ率いる王国軍を見送りしていたその矢先再びトラブルは起きた
「ん!?これは!」
目の前に突如空間を割るように現れるゲート
これは間違いないフランだ
「クライヴ!兵を連れてさっさとここから逃げろ!」
「わ、分かりました!」
俺の慌て具合を察したクライヴはすぐ様兵達を誘導しその場から去ろうとしていた
だが───
一足遅かったのだ
「あれー?また人間がいるよ」
ゲートを潜り抜けゆっくりと姿を見せる人物
それは魔王の1人フランだった
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「ここはいつから人間みたいな下等生物のお遊戯会場になったのかな?」
不気味な笑みを浮かべながらゲートからフランは姿を現した
「ちっ、クライヴ!すぐにここから離脱しろ!!!」
「りょ、了解しました!」
俺の必死さを察したかのようにクライヴは兵を引き連れ馬に鞭を打ちその場を遠ざかろうとしていた
だが───
「なに逃げてんの?」
その行動自体この魔王フランに対しては無意味でしかなかった。
フランの重力魔法がクライヴ達を襲う。
「ぐはっ!な、なんだこれは...身体が押し潰される。」
フランの重力魔法がクライヴ達を地べたへと貼りつける。
「勝手に逃げてもらっちゃ困るなあ」
そんなフランに対して俺は高速で戦闘体制へと移行してフランに斬りかかる。
「ハーっ!」
その俺の攻撃をフランは顔色一つ変えず右手の人差し指で斬撃を軽く受け止める
「んー?何人間ごときがこの僕に斬りかかってんの?」
その俺の行動にフランは怒ったのか少し目つきが鋭くなり声も低くなりそう俺に言ってきた。
「クライヴ達を....離しやがれ!!」
そんなフランに対して俺は少し感情を駆り立て怒鳴りつけた
「相変わらず君は礼儀というものを知らないらしいな
自分より強い人に物を頼む時は土下座をしながらお願いしますと懇願だろ?」
そう言ってフランは俺に対しても重力魔法を使用してきた。
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「ぐはっ!」
体の全てを押しつぶされるような痛さが俺の痛覚を刺激する。
「離せって...言ってんだろ...」
苦痛に耐えるようなかすんだ声で俺はフランに言い放つ
その時だった
フラン目掛けて小さい何かが攻撃を仕掛けてきたのだ。
それはそう。
──リアだった
両手を塞がれたフランはリアの攻撃をかわすことができず顔面へとモロにリアの右ストレートが入った。
だが、フランは以前平然としている。
「リア、これは一体どう言うつもりだ?」
先ほどまでとは桁違いの魔力量がフランから溢れ出ている。
「どう言うつもりだと聞いているんだ!」
フランはリアの首元を掴み持ち上げ再度問いかける。
「っ!」
首が閉まりかけているのかリアは足をバタバタと暴れさせてもがいている。
「や...めろ...は...離せ...」
そんなリアを見て俺はフランへと命じる。
「うるっさいなあ!! お前は黙っていろ!!!」
だが、既にフランは対話する事が
不可能なほど感情が不安定になっていた。
「おいリア!答えろ!魔族に処刑されそうになったお前を助けてやったのは誰だ!?」
その問いかけに対してリアはゆっくり苦しみながら声を出す。
「フ...フラン様です...」
「そうだよなあ!?じゃあ何で命の恩人であるこの僕を攻撃したんだ!答えろリア!!」
鬼のような形相でフランはリアへと一方的に問いかけ続けていた。
「...その人間を....殺して欲しくなかったらです....」
必死に震えた声でリアはフランの問いかけにそう答えた。
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「はあ。君には本当にガッカリだよ
もういいやここで死んでよ」
ため息混じりにそう言い放ったフランは左手を振り上げる。
「おい...おい....やめろ!」
フランの魔法に必死に抵抗するが体は動いてくれない。
「動け...動け...動け....動け動け動け動け動いてくれ!!!」
何度も起きあがろうとするが協力な重力魔法は逃してはくれない。
「やめてくれ....頼む...」
これまで過ごしたリアとの記憶が今鮮明に俺の脳裏に蘇る。
「バイバイリア。せめて苦痛なく殺してあげるから」
そう言ってフランは振り上げた左手をリアの心臓目掛けて突き立てた
「やめろー!!!!」
グサッと肉を貫く鈍い音が聞こえた。
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グサっと肉を突き刺す鈍い音が辺り一面に響く。
その瞬間俺はその出来事から目をそらすように現実を直視しないように瞼を閉じていた。
数秒後俺はゆっくりと目を開く。
するとそこには───
「クライヴ!?」
俺は姿を見た瞬間に驚いた。
そこにはクライヴがリアの身代わりになるかのようにリアとフランの間に割って入っていたのだ。
「クライヴ!!」
クライヴの身体はフランの一撃によって腹部を貫かれ大量の血が垂れ流れていた。
「あーあとんだ邪魔が入ったなあ」
そう言ってフランはクライヴを投げ飛ばす。
「まあいいさ、結果は変わらないから
さあリア今度こそ本当のお別れだよ」
そう言って再びフランは左手を振りあげる。
「クソッ。──情けねえ...」
自分の無力さ非力さに心の中でそっと俺は嘆いた。
───俺には
『何もできない。』
いつしか俺の頭の中はそんなネガティブな言葉だけが支配していた。
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「情けねえ...」
俺は自身へと問いかける。
俺は勇者だ。
人々を守り
希望を与える────勇者だ。
戦うんだ。
悪に屈してはいけない。
現実に目を背いてはいけない
「やるんだ」
そう決意した瞬間だった
フランの重力魔法で動けなかったはずの身体が軽くなる。
何故かはわからない。
だけどこの気を逃すわけにはいかない
「いける。光魔法!シャイニングウイング!」
閃光のごとき速さで俺はフランとの間合いをつめる。
「光魔法 フラッシュ!」
「ぐっ!目が!!」
意表を突かれたフランはとっさに自身の目を片手で塞ぐ。
「今の内だ!リア!」
俺はリアを掴むフランの手を振り払いリアを抱きかかえた。
「リア!大丈夫か!?」
「ゴホゴホッ。すまぬシオン。」
リアの表情はとても辛そうにしていた。
「喋らなくていい 今は休んでいろ」
俺はそう言ってリアをゆっくりと地べたに横たわらせた
そしてフランにこう言った
「フラン。お前は俺が倒す。」
「あ?人間ごときがこの魔王である僕を倒すだと?笑わせるな!」
フランは完全に油断しきっている。
確かにこいつと俺の力の差は天と地ほどの差がある
それはまぎれもない事実だ。
だが俺は諦めない。
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世界を救う英雄はいつだって絶望の中に現れる
人々の希望の光になるために────
だからこそ諦めない。
いや、諦めちゃいけないんだ。
俺が──────勇者である限り。
「行くぞフラン!光魔法 シャイニングアロー!」
俺は距離を詰めると同時に魔法を放った
だが
「そんなゴミみたいな魔法は僕には効かないよ」
俺の予想通りフランは無傷。
だがそれでいい
今はとにかく時間を稼ぐことが優先事項だ
そして距離を詰めた俺は近距離でフランに再び魔法を放つ。
「光魔法! フラッシュ!」
「ちっ!うざったいなあ!」
フランは強烈な光によって目を瞑る
今だ。
ここしかない
ここを逃せば勝機は完全になくなる
「終わりだフラン!光魔法!セレスティ アルレイ!!」
俺の今や切り札でもあるべき上位魔法
『セレスティ アルレイ』
かつての古の勇者が魔王に向けて使ったとされる光属性の上位魔法
これをくらえばいくらフランであれ効くはずだ。
無数の強烈な光の光線がフラン目掛けて襲いかかる
光線は大地を貫き地響きと共に大地へと吸収された
「ハアハア...やったか...?」
だが俺はその時まだ完璧に理解しきれていなかった。
人間と魔族の力の差を。