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俺の名前はシオン
人は皆俺の事をこう呼ぶ。
───「「勇者」」と。
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「な、なんだと...」
「はあ、本当に鬱陶しいなあ」
光線の中から姿を現したフランはまさかの無傷だった。
「これが君の奥の手かい?」
フランは不気味な笑みを浮かべ俺に問いかけた
「ありえねえ。」
本来光魔法は魔族のみを対象とした属性魔法。
いわば魔族にとっての弱点である属性だ。
その上位魔法をくらって無傷だと?
ありえるわけがない。
「これでわかっただろう?いくら勇者であろうが所詮は人間。
人間ごときの攻撃で魔王であるこの僕は倒れない」
「ありえない。」
俺はその時生まれて初めて感じたことのないほどの絶望を味わった。
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改めて思い知るフランという魔族の力の底。
勝ち目などもう無い。
俺は最早戦意喪失寸前だった。
「いい顔をするね。圧倒的な力を前にして絶望するその表情。
中々そそらせてくれるよ」
フランは嘲笑いながら俺にそう言った。
確かにフランの言う通りに俺の顔は今や覇気を無くし戦う気力すらをも無くしていた。
自分が持つ最大級の魔法をいとも容易く破られたのだ。
気力をなくすのが普通────。
無理もない。
「どうすれば。」
フランを倒す方法が見つからない。
光が望みが闇へ絶望へと
───変貌する。
「万策尽きた。負けだ...」
俺は自らの死を悟った。
もはや勝てる方法などどこにもない。
「正気を失ったか。自身の死をやっと理解したか 安心しなよ 苦痛なく死なせてあげるから」
今思えば魔族に勝とう等という考え自体が無駄だったのかもしれない
何が勇者だ
結局俺にできることなんか何一つありはしない。
人間は魔族に勝てはしない。
「そうだ。勝てる訳がないんだ。」
なのに....どうしてだ?
何で俺の体は戦おうとするんだ?
そんな現実を前にしても俺の体は折れることを知らなかった。
何故?何故俺の体は動こうとする?
「あぁ、そうか」
俺なりにその答えを考えて見つけた。
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「俺は多分お前と一緒に生きたいんだリア」
君を救いたい。
君を守りたい。
君の笑顔が見たい。
そして君と一緒に未来を歩みたい。
その未来のために────
可能性が0で無いなら。
0.01%でも勝てる可能性があるのなら。
俺は戦うんだ。
君を苦しめる奴らから君を救うために──
「リア。俺が絶対お前を助けてやる。」
守りたいものがあるのならば
大切なものがあるならば
────抗え。
「はぁー!!!」
俺はフランへと攻撃を仕掛けた。
「あらら何か知らないけどやる気が戻ったみたいだね だけど残念。力の差は埋まらないよ」
そう言ってフランは俺を吹き飛ばす。
「グハッ、....まだだ。」
俺は諦めない。
諦めてはいけない。
「はあ!!」
「無駄だって」
何度倒れようともこの身が壊れようとも身体が動かなくなろうとも────諦めない。
「グッ、ヤベエ..意識が飛びそうだ。」
「シオンやめるのじゃ!お主が...お主が死んでしまう!」
「大丈夫だリア。 俺が何とかしてやる。全部任せろ」
とは言ったものの付け入る隙が無い。
俺の持つ魔法じゃ奴にかすり傷を与えることすら不可能だ。
この絶体絶命の状況を回避する方法があるとするなら方法は一つ。
フランを倒せるほどの火力を持つ極魔法を今この瞬間に身につける
ことだけだ。
「ふは。これは言わば───賭けだな。」
本来なら極魔法を人間が取得するならば最低10年以上もの時間を次やしてしまう。
しかしこれは確実ではない
10年以上もの長い時間をかけても取得できないことだってあるのだ。
だから俺は賭けに出る。
────なあ。
どこかで見てるんだろ?
頼む。返答してくれ
あんたが救いたかった人間界の唯一の希望の俺がこの様なんだ。
力を貸してくれ。
──────
─────
────
───
──
─
───────女神様。
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俺は女神様と一度も直接会ったことがない。
本当に女神様と言う存在が居るのかすらもわからない。
だからこそ──賭けに出る。
女神様と言う存在が本当にいるとするならばきっと勇者である俺の問いかけに答えてくれるはずだ。
「頼む。女神様。俺を..リアを...人々を...
助けてくれ。」
俺は心の奥底から絞り出すように天界までこの声が届くように意識して声を上げた。
何度も何度も何度も何度も懇願した。
俺に残されている可能性はこれしかないからだ。
「頼む。頼むよ女神様。」
何度問いかけようとも応答はない。
「やはり....ダメ...か。」
諦めかけたその時だった。
空高く上空より強い光が曇りがかった空を引き裂くように差し込めた。
それはまさしく神々しい光。
やがてその光はあたり一面の空を曇天から晴天へと変えた──。
その直後に、空より差し込めた神々しい光の中からとても透き通るような美しい声が聞こえた。
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「諦めてはなりません勇者シオンよ 我々、神々は皆あなたの味方です。」
声が聞こえる雲ひとつないほどの天空を見上げればそれはもはや人間ではないほどの美貌。
誰しもが崇め奉りたくなるほどまさしく神聖という言葉はこの人の為にあると思えるほど、とても美しい女神様が天空より舞い降りてきていた。
「女神....様??」
「はい。私こそが女神です。あなたの願いしかと私に届きましたよ。」
ゆっくりと大地に足をつけ女神様は人間界に降り立った。
「勇者シオン。よくぞ1人で人間界を守るため闘ってくれました。本来我々は人間界への直接の干渉はできませんがあなたという人間の価値を讃え、特例としてあなたの願いを叶えましょう。」
女神様はそう言って優しく俺に微笑んだ。
「ば、馬鹿な!女神が下界に降り立つなどいう話は聞いたことがない!」
フランは女神様のその威圧と威厳、神々しいほど美しいその容姿にその方が女神であることを即座に理解した。
「今回はごく稀な特例です。」
「ちっ、まずいまずいまずいまずいまずい。」
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俯きながら親指を軽く甘噛みしながら必死にまずいという言葉を発するとともに瞼を大きく見開いている。
その姿はさっきまでの余裕とゆとりのあったフランとはまるで別人かと思うまでにフランは動揺を隠しきれずあからさまに自身の行動にその動揺と戸惑いが出てしまっていた。
「我が名は女神アテナ。魔界の大魔王ヴィルムに仕える六天魔王が1人、魔王フランよ。我ら神と人間界への安泰の為今ここで消えてもらいましょう。」
人々の信仰心を無くし、弱体化させた神であればフランは勝てる見込みはあるかも知れない。
だが、未だ信仰心が無くなっていない力ある神にいくらフランであれとも勝てるはずがない。
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神とは主に魔族に相対するもの。
魔族が悪とするならば、神は正義。
弱体化していない正義に悪が勝てるはずがない。
それはこの世界の絶対に揺るがない──
いや、揺るいではいけない揺るぎえない世界の──理。
女神様が現れた時点で勝敗は決していたのだ。
「今、あなたとやり合うのは部が悪すぎる。
僕は引かせてもらうよ。それじゃあまた」
潔く、フランは女神様との戦いを控えた。
それも当然だ。
勝てる見込みのない戦はしない
これは本来当たり前の事なのだ。
逃げる事──これが今のフランにとっての最善の一手。
「そうですか。それは残念です。
では大魔王ヴィルムへお伝えください
あなた方は少々やりすぎてしまった。
いずれ我々、神々は必ずあなた方を倒し
再び安泰の世にしましょうと。」
「了解。ヴィルム様に伝えておくよ」
そういって片手をヒラヒラと振り、冷静を装いながらフランはゲートへと姿を消した。
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募金を装い、詐欺。山口純子容疑者逮捕-埼玉県入間市
リウマチ患者への募金を装って、現金をだまし取るなどしたとして、埼玉県警狭山署は19日、
入間市在住、元看護士 山口純子 容疑者(57)を詐欺容疑で逮捕した。
調べによると、山口容疑者は街頭募金を装い、通行人15人から計16万3千円をだまし取った疑い。
山口容疑者は「自分はリウマチにかかっているので自分のために使っても問題ないと思った。
他にも数件やった。」と供述。
埼玉県警狭山署は余罪があるものとしてさらに捜査を進める方針。
(2022年4月19日 朝日新聞)