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0話 魔法文明の始まり
これはこの世界に語り継がれる2人の人物の物語だ。
昔々──それはまだ俺たちが生まれるはるか昔、まだ人間界に剣の文明が栄えていた1000年も前のこと。
この世界は魔界からやってきた魔王とその配下である魔人達に支配されていた。
人々は魔王のその圧倒的な力を前に次第に生きること、即ち勝つ事を諦めてしまう。
そんなある日、1人の人間がこの世界・・そして、人類を救うために立ち上がります。
その者の名前は「「レオン・ハルト」」
彼はこの世界において『剣聖』と呼ばれるほどの剣の腕と力を持っていました。
レオンは魔王に対抗するために人々を戦場へと駆り立てて魔王の住まう城へと皆を率いて攻め込みました。
攻め込んだレオン達はそれほど大きな犠牲もなく順調に魔王の居る部屋の前までたどり着くことに成功します。
だけど、その時レオンはふと疑問に思いました。
ここまでくる間の城内の警備があまりにも緩かったからです。
何かがおかしい。レオンの頭の中には色々な疑問が駆け巡りました。
レオンは1人頭を抱えて考えました。
そしてようやく──そのおかしさの理由が分かってしまったのです。
レオン達は魔王の居る部屋へと突入しましたがそこに魔王は居ませんでした。
そう、レオン達はまんまと魔王の術中にハマってしまったのです。
魔王の思惑が分かったレオンは慌てて人々に撤退命令を出しました。
だけど、それはすでに手遅れでした。
その後、魔王はレオン率いる人間の連合軍が城内にいることを確認して魔王城をまだこの時、人間が扱えなかった"魔法"を使い破壊しました。
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まだ真っ暗な常闇の時間に俺は寒さによって目を覚ました。
寒くて眠れない。
今の時期は冬季、凍てつくような冷たい風が吹く夜は掛け布団もないこの状態では凍えて死んでしまう。
そんな眠れない状況なので俺は少し歩いて体を温めることにした。
街とは反対側へと只ひたすら暗闇を歩き続けた。
しばらく歩き続けたら俺の体は震えるほどの寒さは感じなくなった。
「よしっ。ちょっと休もう。」
当てもなく歩き続けたが足の疲れを感じて俺は近くにあった木の麓へと腰掛けた。
何キロぐらい歩いたんだろう。
今自分がどの辺りにいるのかは分からない。
只ひたすらに街とは反対側に向かって歩いてきたからだ。
そして俺はふと空を見上げ星を見る。
「すごいな。」
街の中では見ることができなかった綺麗で力強く光る無数の満天の星達が空を彩っていた。
人工的な光がない所では星がよく見えるとアストラル家の書斎にあった何かの本に書いてあったが本当だったんだな。
綺麗な夜空に心が癒された俺は視線を自分の座る高さまで落として辺りを見渡す。
「ここはどこだろう。」
街の外に出たのは初めてだったので今どの辺りにいるのかも当然わからなかった。
そしてキョロキョロと辺りを見渡しているとチラッと近くの茂みから光る何かが見えた。
「何だ?」
その光へと歩いて向かった。
するとそこには
「ゴブ!!」
5匹程の魔物がいた。
暗闇でよくは見えないが、背丈は小さくスカーフのような物を首に巻いている。
魔物の図鑑で見たことあるな。
確か名前は───
ゴブリン・・・だ。
「あれがゴブリンか。初めて見た・・・ってそんなこと言ってる場合じゃないか。襲われたら大変だ・・急いで逃げよう。」
魔物に対抗する術がない俺は見つからないようにとゴブリンの元をさろうとしたがその時、バキッと枝が折れる音が来た。
その音を追って自分の足元を見ると折れた枝を確認できた。
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「ゴブ!?」
その音が聞こえた瞬間にそこにいたゴブリン達は俺が居る方へと振り返った。
そして1匹のゴブリンと目が合い──。
ゴブリン達は一斉に俺の方へと走ってきた。
「ま、まずい!」
そのゴブリンの行動を見た瞬間に俺も全速力で走り出す。
まずいまずいまずい。
捕まったら死ぬ!!
後ろを振り向かずにひたすら足を動かし全速力で逃げるが後ろから聞こえる足音は一向に遠くならない。
「だ、駄目だ!!追いつかれる!!」
そう思った瞬間──。
ゴツンと鈍い音と同時に俺の意識がなくなった。
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3 初めての魔物
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どのくらい眠っていたのか分からないが俺は意識を取り戻した。
重たい瞼をゆっくりと開いて目に入る物を見る。
視界がぼやけていてあまりよくは見えないが火のような赤く燃え上がるものがあった。
だが、次第に視界も回復していき辺りの様子をしっかり確認することができた。
「焚き火・・・?」
辺りを見ると炎を囲むように円になってゴブリン達が踊っていた。
数も増えている。
さっきまで5匹程度だったはずなのに今目の前にいる数は15匹程。
「ま、まずい。こいつら俺を食う気だな。に、逃げないと・・・」
そう思い立ち上がろうとしたが・・・体が動かない・・・!
自分の体をよく見ると縄で木にぐくるぐると縛り付けられていたのだ。
まずい。逃げれない。
どうにか縄を解こうと必死になって体に力を入れるがびくともしない。
そうして逃げようとしていると1匹のゴブリンがこちらに気づいた。
「ゴブッ!ゴブゴブ!!」
ゴブリンの鳴き声をあげながら俺の方へと指さした。
するとその俺のことを指差すゴブリンの指先の方へと他のゴブリン達も一斉に振り返る。
「ああ・・・まずい。」
俺が目を覚ましたことをゴブリン達に勘づかれてしまった。
こうなればもう逃げることが出来ない。
「俺の人生もここでお終いか。父上には勘当され弟には馬鹿にされあまつさえ魔法にすら馬鹿にされたやつの最後が魔物に喰われて終わるのか。」
自分のその状況を考えてその情けない滑稽な姿に少しばかり笑いが込み上げまでくる。
次生まれ変われたらちゃんと魔法を使える体にしてくださいよ神様。
自分の死を理解して神様へ願い事をする始末だ。
「もういいよ。どうとでもしやがれ!」
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俺を眺めるゴブリン達に対しての最後の足掻きを見せた。
言葉で威嚇することしか出来ないが
全てから見放された俺の最後がゴブリンに喰われて終わりなんて実に似合ってるもんだなと自分の最後を相応しいものだと思った。
そう考えている間にもゴブリン達は俺の方へと歩み寄ってくる。
そんなゴブリン達を見ながら。
どうせ戦う術を持たない俺はもうここで死んだ方がマシだと自分を罵った。
そしてとうとう俺はその時を迎えることになる──。
「「「ゴブッ!!」」」
ゆっくりと歩み寄っていたゴブリンが豹変し俺に飛びかかってきた。
ゴブリン達は俺を自身の手に持つ棍棒を使いこれでもかと言うくらいに振り下ろす。
何度も何度も何度も何度も。
初めて味わう痛みの感覚───。
「がはっ。」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
頭が割れそうだ。
しかし───その痛みにも次第に慣れてきた。
というより、意識を失いかけて痛覚が麻痺してきたのだと思う。
朦朧とする意識の中自分の死を理解して目をゆっくりと閉じる。
その合間に見えたのは俺の飛び散る血液だった。
───そして直ぐに俺の意識は無くなった。
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何とも言えないくらい心地いい浮遊感。
そんな感覚にとらわれていた俺の耳に透き通るように綺麗で聞くだけで落ち着くそんな声が聞こえてくる。
≪君は力が欲しいかい?≫
力?何だそれ。
俺に力なんかあるわけ──。
でもそうだな、貰えるとするなら欲しい・・・かな。
≪君は力を手にして何をする?≫
何をするって・・そんなの決まってるじゃないか・・。
勇者になってこの世界を魔王の手から救って・・・それで・・・俺のことを認めさせるんだ。
父上に・・・レギトに・・・。
──って、魔王はもうないんだっけか。
≪ははは。勇者とはまた大きくでたね。でも、君は自分をここまで追い詰めたこの世界が憎くはないのかい?
こんな理不尽な状況を作り出したそんな世界でも救おうって君は本気でそう思えるのかい?≫
理不尽・・・?
確かにこの世界は理不尽だらけだね。
才能あるものにはどう足掻いたって勝てないし・・・魔法を使えないだけで家から勘当されちゃうし・・・
でも・・・だからこそ・・・この世界は面白いと思うんだ。
何が起こるか分からないのが人生だからね。
≪ははははは。うんうんそうだね。君すっごく面白いね。気に入ったよ。君にならこの世界を任せることができる。今そう確信したよ。≫
≪では君に力を与えよう。ただ、一つだけ言っておくとこれは魔法の力では無い。今は存在しない剣の力だ。≫
剣・・・?
剣の文明は1000年前にとっくに無くなったはずじゃ・・・。
≪いいかい?必ずこの力を駆使して世界を救って。後のことは任せたよ。≫
そう言い残しその声は聞こえなくなった。
そして俺の意識は元の世界へと戻り──次第に覚醒する。
「何だったんだあれ・・・って傷が無くなってる!」
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体をあちこち触るが意識を失う前はあったはずの傷みも傷もその全てがなくなっていた。
だが、辺りに広がる飛び散った血は未だにそこに存在した。
と、辺りを見渡しているとその存在を忘れてしまっていた。
「「ゴブッ!!」」
俺が起き上がった事を確認してゴブリン達が再び俺の方へと飛びかかってくる。
だが──そんなゴブリン達の動きが何故か先程までとは比べ物にならないくらい遅く動いていた。
なんだこれ?ゴブリン遅くないか?
その目の前の異様な現象に驚いた俺にさっきあの空間で聞いた声が耳に流れ込んできた。
≪いいか?ゴブリンが持つあの棍棒を奪い取るんだ。そうすれば自ずと体が教えてくれる。≫
どこから聞こえているのか分からないが声がする。
だが、今はこの声の指示に従った方がいい気がした。
俺はすぐに行動に移した。
飛びかかっているゴブリン達の中の1匹に焦点を絞り──振り上げた棍棒を奪い取った。
そして俺はその奪いとった棍棒を自分の頭の上へと振り上げるとある言葉俺の脳裏に浮かぶ。そして咄嗟にその言葉を叫んだ。
「──ハルト流剣技。・・・一閃!」
そう叫んだ刹那───俺の体はゴブリン達の背中側へと移動していた。
ボタボタボタボタと飛びかかっていたはずのゴブリン達の肉体が地面へと落ちる。
「え・・えっ・・?勝った・・・?」
その状況を見て俺は少し固まった。
絶対に勝てるはずがないと思った相手が倒れていたからだ。
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4 新たな出会い
「何で勝てたんだ・・・?それにハルト流って一体・・・」
剣を振り上げた時に自然に口から出た言葉───ハルト流剣技。
ハルトと言う言葉には聞き覚えがある。
"愚者"レオン・ハルト。
このハルトに関係するのかもしれない。
それに俺が使ったそれは多分きっと今はなき剣の技だ。
今回使った物は剣ではなかったが、それにしてもあの威力はすごかった。
剣を使えばどれほどの威力になるのだろうと少し興味も湧いた。
それにあの謎の空間で聞こえた声。
あの声の主がこの力に関係があるのはまず間違いはなさそうだな。う
でも何はともあれ、俺は生き残れた。
それはつまり、この世界で1人で生きていく術を見つけたということだ。
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魔法は使えないが剣なら使える。
魔法が使えないなら剣を使えばいい。
魔力がない者でも剣ならば戦うことができる。
それなら・・・
魔力がないと言われて馬鹿にされながら笑われて、挙げ句の果てには実の父親から捨てられた俺にでもまだ生き残れる可能性があるのなら・・・父上達に一矢報いることがでるのなら。
それならば───、
俺は必ず───
──魔法文明のこの世界で魔法が使えなくとも俺は剣だけで最強に至ってみせる!
そして必ず──あの馬鹿レギトと父上を見返してやるんだ!
そうと決まればまずはこの棍棒ではなくちゃんとした剣を探す必要があるな。
棍棒でも威力は十分だったけど剣の技は剣で使わなくちゃ勿体無い。
でも、問題も多々あるんだよなあ。
剣の文明が無くなった今の時代に剣なんて売ってるとこも作ってるとこも存在しない。
さてさて、どうしたものか。
可能性があるのはやっぱり──古の遺物とかかな。
となるとまずは情報の入手しないとな・・・。
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でも今自分が何処にいるのかここがどの辺なのかも分からないしな・・・。
見た感じゴブリンの住処だし森の中・・だし。
んー、まあここで悩んでても仕方ないし取り敢えずは森を抜けよう。
大通りまで出れば商人とかが通りかかるかも知れない。
そうと決まれば今只進もう。
こうして俺はゴブリン達の死体を背に森を抜けるためにただ真っ直ぐ突き進むのだった。
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どのくらい歩いただろう。
1時間くらいは歩いたかな。
空を見上げると木々の合間から太陽の光が見えた。
空はこんなに明るいって言うのに森の中は木が生い茂りその陽の光を遮っていて薄暗い。
そんな薄暗い森の道の先をぐるりと体を一周させ眺める。
するとそこにポツンと眩い光が見えた。
薄暗いはずの森なのに光が見えるとなると・・・
「あそこが森の外だな!」
ようやく見えた1つの光。
その光を追いかけるように俺は光に向かって走った。
そしてついに──俺は森を抜けることが出来たのだった。
「やっと出られた!!」
陽の光が暖かい。
辺り一面に光が差しているだけでこれほどまでに安心するのかと思うくらいホッとした。
「よし、とりあえず歩くか。」
俺は森を抜けた後も森沿いを只ひたすらに歩き続けた。
誰かに遭遇出来ることを願って果てしなく続く地に足をつけ歩き続けた。
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そしてさらに1時間ほど歩き続けたらようやく──人の声が聞こえてきた。
「は、離しなさい!」
どことなく気の強そうな女性の声が聞こえてきたのでその声がする方へと向かった。
声の感じからして何かに襲われているのかもと思って森の木に身を隠しながらゆっくりと近づいた俺はその声の主らしき女性を目視することができた。
綺麗に染められたワインレッドのドレスに金髪の長い髪それに身につけているジュエリーなどを見るとどこかの貴族の令嬢かな。
年は俺とはあまり変わらなさそうだな。
それと・・・その令嬢を守っているのは見た感じ世話役のメイドさんだよな・・・。
みんなもう忘れていると思うが一応俺も大貴族と言われるアストラル家の子息様だったからね。
身につけている物とか言動を聞けば貴族か平民かぐらいの予想はだいたいつくもんだよ。
「それにしても・・・」
その貴族の令嬢と思われし女性の周辺には護衛の魔法兵らしき者が数十人ほど倒れているのが確認できた。
となるとやっぱり・・・金銭目的とかでの犯行なのかな。
うーん。助けるしかない・・・よな。
歩き続けてやっと見つけた人だし・・・。
ここで見捨てたら次はいつ人に会えるか分からないしな。
まあ、幸いな事に今の俺にはあの剣の技があるし、やるだけやってみるか。
そう決意した俺は次に敵の数の把握し始めた。