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第1話 「フリーターが落とし物を届けたら、異世界の探偵に任命されたので人生が変わった」
(本文)
茉希(まき)。大学を卒業して現在、フリーターである。
今は、ウェブデザインのバイトをしており、在宅勤務している。月1回、会社に出社しないといけないので、バスに乗る。今日は出社する日だ。
バスは、珍しく人が乗っていて既に席が埋まっていた。始発にもかかわらず席が埋まっている。
ガタンゴトン
「発車します」
と運転手が言うのと同時に、タイヤの音が轟く。
窓から景色を眺める。すると、銀髪の大人っぽい女性がバスから降りるのが見えた。
その空いた席に、次にバスに乗った女性が座った。
「この財布を落としたのは誰ですか?」
その乗客は、前後左右の他の乗客に尋ねるものの、持ち主は乗客にいなかった。
多分、さっきバスから降りた銀髪の女性の財布だ。
遠くから財布を見たが、きっと良いところのブランドのものだろう。
彼女は、素材がきれいな黄緑色のコートをまとっていた。カバンは革製だ。良い物に違いない。
私は、前の乗客の持ち物であることに確信を持っていた。
持っていそうなものの他に根拠があった。
それは、始発のバスは運転手が車内を点検するため、そこのバスの席に乗ったことある人、つまり、銀髪の女性の前の乗客の人たちの持ち物ではない。
思考を巡らせながら、気付けば口が考えるより先に動いた。
「さっき乗っていた人が落としていました。」
直接、見たわけではないので自信はなかった。
運転手に財布が渡されて、その中にカードを出して調べると、その女性の落とした物だった。
バスより人間の歩くスピードは遅いはずだ。間に合うはずがない。
しかし、その女性は、次のバス停にいた。
いや、落とし物に気づいたから先を急いだのではないか。
運転手が女性に財布を渡すと、さっきの乗客が「あの女の人の助言が手がかりになったのよね。」と私の方を向きながら言った。
銀髪の女性と目が合った。
「こんにちは。」
「あなたが拾ったのですか?」
「いいえ、私は助言しただけです…。」
急に目の前が真っ暗になり、辺りは暗闇に包まれた。そこには銀髪の女性と茉希の二人だけがいた。
「ありがとうございます。あなたを私の探偵に任命させて頂きませんか。さあ異世界へ急ぎますよ。」
え。今なんて言った?
これは流行りの異世界転生?
いや、死んでないし違うか。召喚?現実世界から連れ出された気がするが。
「何をグズグズしているんです。さあ、行きますよ!」
銀髪の女性の手を掴むと速いスピードになった。
ああ。だから、バスより早く次の駅に着いたのか。
「私は、妖精使いのルシー。魔法も使えます。」
「日が落ちる前に向かいましょう。」
茉希が、異世界の妖精使い「ルシー」の探偵になる生活が始まった。(第1話終わり)
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第2話 「宮殿の任命式」
(本文)
ルシーと名乗る妖精使いに手を引っ張られると、加速した。あっという間に宮殿に着いた。
「ルシー様、ようこそいらっしゃい。」
声に張りがあり、威勢がいい。声の主は剣を携えている。聖騎士といったところだろうか。
「さあ、これから任命式を始めましょう。」
「次期女王はルシー様です。」
「トルソー、おばあ様に私が女王になることを相談しなかったから、その件は保留ね。」
トルソーと呼ばれる人物は、ルシーの使用人といったところか。
「保留ですね。了解です。」トルソーは返事した。
見物客がたくさんいる。茉希を警戒しているように見える。
「人間に気を遣う必要はない」見物客は言った。
「ギャラリーに私が茉希さんの事情を話して参ります。」トルソーは優しく声をかけた。
「何で人間が異世界(ここ)にいるんだ!」
ギャラリー、と呼ばれる見物客の輪の中からそんな声が響いた。続いて、他の見物客が心無い言葉を言った。
「まったく。お母様の母にあたる人が元人間だなんて。お母様の家出も仕方ないでしょうに。」
「お母様の家出とおばあ様は関係ないわ…!」ルシーは怒りが込み上がりそうだった。
「…!人間?」私はルシーに尋ねた。
「私のおばあ様は人間だったけど今は違うわよ。異世界の住民よ。異世界と現実世界を自由に行き来できた時代だったから、おばあ様が元人間でも仕方ないわよね。」
しばらくの間、空気は乱れていて重かった。
しかし、任命式は続いた。
「私から報告があるわ。探偵を見つけたの。」
「茉希です。」
「探偵になる予定の人が見つかったわ。」
「茉希を探偵に任命します。」表彰台のようなところまで案内されると片眼鏡と探偵らしい羽織ものをもらった。
回復術師、魔女、聖騎士、精霊使い、魔王、護衛が任命された。
ギャラリーから拍手が聞こえた。異世界では、しとしとと雨が降っていた。
トルソーは、異世界に来た茉希、人間についてギャラリーに説明していた。
「お嬢様が人間界におばあさんの家に行く途中で探偵をスカウトしました。茉希さんは、探偵の任務が終わるまで異世界にいます。」
ギャラリーからは、再び拍手が聞こえた。茉希は、恥ずかしがりながらギャラリーに一礼をした。
任命された時に、片眼鏡と羽織ものを眺めていた。
「安心しなさい。その眼鏡には度が入ってないわ。」ルシーが言った。
「探偵らしい格好でモチベーションが上がります。」
「ところで、私はいつ現実世界に帰れるんでしょうか。」
「ん。私は、人間界にいる時に途中で妖精を迷子にさせてしまったわ。妖精を探し出したら人間界へ返してあげる。」
「それまでは、希少価値のある金貨を渡すわ。安心して。人間界に帰るとそれは自然にお金に換金されるわ。」
その後、ルシーは金貨に換金される現実世界の値段を教えた。正直、フリーターの給料より、探偵の給料は高く、桁違いの数だった。
「現実世界に戻れないのは困る…!」
この時点では、茉希は異世界から早く脱出したかった。
「ん。ということで異世界を楽しみたまえ。」
雨空は消えて、日差しが戻った。
(第2話終わり)
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第3話 「ルシーの使用人トルソーのブレスレット」
(本文)
窓にかかる風鳴りが、茉希の浅い眠りを破った。暗闇の中、布団を被ったまま耳を澄ますと、吹き寄せる風に乗って無数の水滴が窓ガラスにしたしたと流れる音が聞こえた。異世界では雨が降っていた。
やがて、雲行きが怪しくなった。
横でルシーが眠っている。この部屋には二つのベッドが並んでいる。1つはルシーのベッドで、別のベッドを茉希が使っている。窓を反らすようにルシーは寝返りを打っていた。
茉希はこの異世界で探偵に任命された。
どうせなら、転生したり召喚されたり異世界イベントが発生してもいいのに。
現実世界で財布の持ち主を当てた茉希の推理力に感心して、ルシーの住む異世界に連れられた。
ルシーは微動だにしない。
しばらく物思いにふけていると、雨は降り続けているが部屋の中が明るくなった。
ドアをノックする音が聞こえ、外から聞き慣れた声がした。
「お嬢様、起床時刻です。」トルソーが言った。
ふにゃあ、と声を上げて彼女は起きた。
「トルソーおはよう」
トルソーと呼ばれる人物は、彼女に今日の服装を渡した。トルソーは、彼女の使い人である。
「あら、ありがとう。」
「トルソー、いつものブレスレットを付けていないわね。」
「お嬢様、目が利きますね。ここ最近、ブレスレットを何者かに奪われたんです。」
「ん。名探偵の仕事が来たわね。」
「…………!」
「トルソー、茉希がブレスレットを奪った犯人を探してくれるわ。」
「私、そんなこと一言も。」
言ってません、という言葉を飲み込んだ。
「ブレスレットを探してくれるんですか。ありがとうございます。」
「その前に朝食に向かいましょう。」
朝食を済ませた。バイキングだった。
「あの、トルソーさん、ブレスレットをなくした時のことを覚えていますか。」
トルソーは首をかしげて考え込んだ。
「特に何も…。ただ、昨日の夜の任命式の時はありました。」
「今日起きた時には、ブレスレットを付けていませんでした。」
「それでは、任命式にいたギャラリーか任命式の時の聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女あたりが怪しいですね。」
茉希がそう言うと、ルシーは口を挟んだ。
「ギャラリーはブレスレットを奪えないわ。」
「それはまた、なぜですか。」
「ギャラリーが帰った後はトルソーはブレスレットを付けていた、と証言するわ。」
「そうですか。実はこのブレスレット亡き妻の形見なんです。」
昨日の任命式にいた聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女を会議室に招集された。
この5人のうち、魔女と回復術者は腕にブレスレットを付けていなかった。
(第3話終わり)
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第4話 「最後のブレスレット」
(本文)
翌日、調査を続けた。異世界の警視庁的な集まりが、聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女の家を家宅捜査している。茉希は、調査中、使用人のトルソーにブレスレットのことを詳しく聞いた。
「亡き妻の形見で大切なものでした。亡き妻のことは忘れません。しかし、妻が亡くなった後、お付き合いしている女性がいます。その女性は、亡き妻のことを受け入れてくれました。」
「お付き合いしている女性は?」茉希は聞いた。
「任命式に来ていた魔女のおば様です。」
任命式に新しいブレスレットをギャラリーを含めてそれぞれの異世界住人に渡された。
「トルソーさん。魔女のいとこの娘がブレスレットを付けていなかったのは、何者かがなりすましていたのでそもそも新しいブレスレットをもらっていないかもしれません。」
これは、唐突な推理だった。
固定電話が鳴った。
「回復術者です。すみません。家宅捜査中に新しく渡されたブレスレットが見つかりました。」
犯人は、魔女のおば様だ。すると、誰かがタイムリーに宮殿の扉をばっと開いた。
「魔女のおば様が、使用人のトルソーのブレスレットを盗みました。」
調査を進めると魔女のおば様はいとこの娘の魔女に変身していたらしい。
「昔のブレスレットを付けているのが真実よ。」
「な、なんであの女のブレスレットを付けている?私が奪ったあの女のブレスレットは夢…?」
あの女は、トルソーの妻である。
昔のおそろいのブレスレットは、亡き妻のものと自分のものを持っていた。だから、自分のものが予備にあたるだろう。トルソーは昔のブレスレットを付けていた。そして、魔女は、任命式の時、トルソーの昔のブレスレットを取った。
魔女は、バタンと倒れた。
護衛は、魔女が付けているブレスレットを外してトルソーに授けた。
「ブレスレットが戻ってきて良かったです。」
「茉希さんありがとう。立派な推理でした。」
「妻のことをこれで終わらせて、前を向きます。」
トルソーの亡き妻のブレスレットは見つかった。
魔女の動機は、嫉妬だった。
トルソーは、妻のことを引きずっていた。新しく付き合った魔女は、どこか寂しい思いをしていたかもしれない。
誰かのことを思っているけれど、思っていてほしい相手が自分でないことがある。もちろん、自分であることがある。
雨は、まだ降っていたが、小雨に変わった。
(第4話終わり)
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第5話「妖精使いの妖精を探すためにする準備」
(本文)
茉希。彼女は、今、異世界で探偵の仕事をしている。ルシーの財布を当てたら、異世界で探偵をすることになった。
ルシーは、妖精使いであり、妖精を迷子にさせている。妖精を探したら、茉希は人間界(現実世界)に戻れる。
「お嬢様。どうして私に妖精を迷子にさせたことを相談しなかったんですか?」
トルソーは彼女に聞いた。
空気は重く、どんよりしていて、かつ緊迫した状況に包まれた。トルソーの背後から聖騎士が鋭い視線でこちらを観察している。
「トルソーに余計な心配をかけたくなかったからよ。」
「ですが、私にはできることはあったでしょう。お嬢様のお母様に連絡を入れたのに繋がりませんでした。」トルソーはルシーを心配している。
真希はおそるおそる尋ねた。
「では、なぜルシーはお母様に相談しなかったのですか。」
しばらく沈黙が続いた。そして、質問に答えた。
「お母様は、階段で転んで動けない状態なのよ。お母様の家に訪れたら分かるわ。」
ルシーはため息を交えながら答えた。
「じゃあ、何で救急車を呼ばなかったんですか。」
互いに視線を合わせた。そして、はっきりとした口調で彼女は言った。
「おばあ様が人間だからよ。お母様と私は、人間の血が流れているからひっそり暮らしてきた。これは私達、関係者以外にしか知らない機密情報よ。おばあ様が異世界のおじい様と結婚する時に、人間か異世界の人になるか選択を迫られた。人間と言葉にした時、ギャラリーは反対の声をあげて上の役職の方は異論を示したわ。だから、異世界の人のふりをしておばあ様は人間界に人間としてひっそり暮らしているわ。周りに私とお母様の情報を提供すると上におばあ様が異世界にいないことが直にバレるわ。」
きっと、異世界にいるルシーの家系は複雑な事情があるだろう。私にできることはあるか、と茉希は考え込んだ。
(第5話終わり)
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第6話 「妖精を探す」
(本文)
任命式の様子はおかしかった。ギャラリーからは咆哮が聞こえて、茉希は怪しんでいた。人間と言葉にした時に、異世界の住人は偏見を持っているように見えた。
人間が異世界にいる。異世界にいたらいけない決まりがあるか。
自問自答したはいいものの、答えは分からなかった。いつか答えは見つかるのかな。
床に妖精の羽の毛が落ちていた。妖精は羽が付いている。
これで、妖精を探すことはできるかもしれない。
茉希は、依頼主のルシーに妖精の特徴を尋ねた。妖精の特徴を教えてくれた。
「羽が緑で、髪型はポニーテールだったかな。」
情報量が足りない。この世界には、他に妖精使いがいるらしい。到底、妖精がいても特定するのが困難だ。
この異世界には、写真という概念がないのか。見渡すと、カメラや写真がなかった。
「妖精の写真はあるの?」
「写真なんだそりゃ。」予想通りだった。
「この紙にルシーの妖精を描いてみて。」
数分後、妖精の絵を渡してくれた。
色鉛筆、クレヨン、絵の具。ルシーが使っていたそれらの文房具は年季が入っていた。きっと、小さい頃から大切にしたんだろう。
妖精の絵を手がかりに、外に出て妖精を探した。
時々、緑の羽が落ちているか、下を向いて確認した。
時間が流れて、夕方になった。夕焼けがきれいで建物まで光がカーテンのように広がっていた。
似ている妖精を見つけた。
「あなたは、ルシーの妖精ですか?」
妖精は、鼻声で、「ルシーの妖精だよ。」と答えた。妖精は泣きそうだった。
宮殿に戻って、ルシーに妖精をそっと渡した。
「ルシー!」「ジェリー!」
ジェリーと呼ばれる妖精は、ルシーの膝にちょこんと座り、泣いていた。目から出た涙は、ルシーの膝にまで滴り落ちた。
(第6話終わり)
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第7話 「元の場所に戻るために」
(本文)
「妖精を探して現実世界に帰還するよ!」
ルシーは、首を縦に振った。
ルシーから現実世界に帰るか帰らないか聞かれて茉希はそう答えた。
ルシーの妖精を見つけたので、無事に現実世界に帰れることになった。
「人間であるあなたが帰還することを伝えるために聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女を呼びましょう。」
会議室に、彼らは招集された。
「協力するわよ!」
ルシーは、彼らにそう指示した。
「回復術者。魔力の調整を頼むわ。」
「聖騎士。宮殿の安全確認を頼むわ。」
「精霊使い。帰還の呪文を可視化して。」
「魔女。魔法陣を地面に作って。」
「魔王。術式を成立させて。」
ルシーは、茉希が人間界に帰るための術式を唱え始めた。
魔女は魔法陣を地面に浮かばせ、回復術師はルシーの妖精やルシーに魔力を調整して、精霊使いは、帰還の呪文を空中に可視化させた。
聖騎士は、宮殿の安全を確保するために、ドア
と窓に鍵をかけた。一方、魔王は、術式を成立させるために、茉希を帰還させることを再現する魔法をかける。
茉希は現実世界に帰ることができた。
しかし、ルシーが人間界にいた。
「なんで私が人間界にいるの!?」
人間界あるいは現実世界にルシーと茉希がいた。
(第7話終わり)
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すみません、この続きは書かないで残します
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第8話 「絶望から離れたい」
(本文)
桜はすっかり散り、木には青い葉が付いた。
誰かが掃除をしたのか、地面には桜の花びらが1つもなかった。
隣には、異世界から来た人がいる。彼女の名前は、ルシーだ。
「どうして、私まで人間界に来たのかな。」とため息まじりに言われた。
茉希が答える間もなく、ルシーはこう言った。
「回復術者、聖騎士、精霊使い、魔女、魔王のうち、失敗した人を当ててほしい。」
「できないよ。今回の依頼はごめんね。」と断った。
ルシーは、依頼を断られて、思い通りに事が進まなかったせいか、不貞腐れた。
妖精は、困ったような様子である。
どうして、異世界に探偵が必要だったのだろう。ルシーの願いを叶えるためなのか。他にも、本質的な理由があるはずだ。茉希は、気持ちを切り替える。
「いつまでも引きずらないでよ。まずは、おばあさんの家に行こうよ。」と話しかけた。
しかし、「探偵の任務は、私の妖精を探したことで終わったでしょ。だから、私のことは気にしないで、探偵をやめていいよ。茉希の生活があるからさ。」とルシーが言った。
どうして、私は探偵を引き受けたんだろう。
ルシーの役に立ちたい、助けたい、そんな気持ちから探偵を引き受けたんだ。
しばらくの間、2人は話し合った。このピンチから離れるために。
(第8話終わり)
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第9話 「帰れる方法はある?ない?」
(本文)
「そういえば、ルシーが人間界(ここ)に来た時、異世界に行きましたよね?」
ルシーの代わりに妖精のジェリーが答える。
「異世界民の力を借りて、人間界に来た時は、異世界民の力がないと、帰れないの。」
茉希は、おそるおそる尋ねた。
「異世界民に連絡して頼めばいいだけじゃ...。」
妖精は続ける。
「人間界から異世界に連絡する方法はないの。」
「そんな...。他に帰る方法は?」茉希は尋ねた。
「ない。」ルシーはぶっきらぼうに答えた。
「でも、心当たりはあるわ。おばあ様の家で、昔、異世界に帰れる書籍を読んだことがあるの。」
「おばあさんの家に向かいましょう。そこで、その書籍を探しましょう。」
こうして、ルシーのおばあさんの家に行くことになった。
「これで話すの2回目だけど、あなたの探偵の任務は終わったからね。いつでも、やめていいのよ。」
「いえ、あなたを異世界に返すこと、女王になることをおばあさんに伝えるまで、私は...。」
「私は探偵をやめません。」
込みあがりそうな気持ちを抑えながら、力強く伝えた。
話し合うまでは、解決するという希望がなかった。木漏れ日の道を歩くと、清々しくなった。木々の隙間から見える光は、地面にまでカーテンのように広がっていた。
(第9話終わり)
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第10話 「召喚された探偵」
人間界で、ルシー達は、異世界に戻るために、おばあさんの家に向かっていた。
「バイト先に寄ろうかな」
「行ってらっしゃい」ルシーと妖精は手を振った。
バイト先では、責任者と直接会って、デザインの資料を渡した。
責任者は「間に合って良かったよ」と言った。
「......はい?」と茉希は踵を巡らす。
「締め切りに間に合ったし、面会する日程は今日じゃないか」と責任者は言った。
ここで、疑問点が浮かんだ。
「........異世界に行ったのに、日付が変わっていないってこと?」
「異世界は、人間界より秒針が早くて、時間が過ぎていると誤解されがちだけど、実は、異世界で過ごした10日間は、人間界では1分過ごしたことになる」
とルシーが教えた。
「そんなことってある?」
私達は、おばあさんの家に向かった。
その頃、異世界では、ルシーがいないことが問題になった。
原因追求とルシーを戻す魔法を探すことが進められる。
協力魔法で魔法をかけていなかった魔法騎士が、ルシーの帰還魔法を唱えた。
「--レングス・プロテクト」
その頃、人間界では、ルシーは無事におばあさんに女王になることを伝えて、異世界に帰れる方法を探していた。
「あれ、体が浮いている....!」
「茉希さん、言いたいことを言ってください。」
おばあさんが言った。
「必ず、魔法をかけた人物を推理で当てます...!」
ルシーは異世界に返された。
(第10話終わり)
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第11話 「協力魔法を振り返る」
(本文)
異世界では、人間界より時が過ぎていた。
ルシーは何者かの魔法によって異世界に戻った。異世界では、1週間ほど彼女が行方不明であることが広まった。
街では、彼女の話題で辺りがざわめいている。異世界民がリヤカーをごろごろ進ませる音と話し声が不協和音になっていて、何か問題が起こっていることは、誰もが察するだろう。
誰かの話し声。噂話。それに耳をそばたてる人。
とにかく街中が騒がしかった。
「宮殿から飛び出して家出したかもしれない」
「女王候補になれなかったかもしれない」
話は歪んでいくが、「ルシーが行方不明」という事実だけが変わらなかった。協力魔法を使った者たちが捜査された。
捜査から1週間後、ルシーが宮殿に帰った。
「ずっと待っていたんですよ」協力魔法をかけた異世界民らが涙声で言った。
「何者かの魔法によって人間界に飛ばされた」彼女は証言した。
ルシーは、まず、異世界で探偵の茉希を召喚させた。
魔力の調整が困難である中、いちかばちかで独力魔法を使った。なぜなら、協力魔法の関係者に頼ることができないからだ。協力魔法を共に使った人物が魔法をかけたかもしれない。彼女は、彼らを信用することをできずにいた。
しかし、今回は、独力魔法を成功することができた。
そして、異世界に茉希が来た。
「必ず私の推理で当てます」やる気に満ちていて、頼もしい。
茉希を人間界に戻すために使った協力魔法を振り返った。ルシーの妖精のジュリーはこう説明する。
「デプス・リカバリー」回復術師は言った。
そして、聖騎士は宮殿の安全を確認するため、現場から離れた。この時、彼の魔法を聞いた者がいなかった。
宮殿の環境が整備された状態で、精霊使いは、「ダイァメター・ポンド」と唱え、呪文を空中に浮かばせて水を使って可視化した。
魔女は、「ウィズ・ポッシブル」と唱え、魔法陣を作った。
最後に、魔王は、「ハイト・ウォール」と唱え、呪文と魔法を術式に変換した。
協力魔法の振り返りを聞きながら、茉希は考え込んだ。
(第11話終わり)
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第12話 「見事な推理と決断」
(本文)
「このなかで魔法を使っていない人物がいます」茉希は言った。
「それは、聖騎士ですか?」魔女がおそるおそる尋ねた。
「はい。ルシーに人間界に飛ばした魔法を使った者は、聖騎士です」
しかし、聖騎士は、その罪を否定した。
「確かに、魔法を使いました。しかし、ルシー様を人間界に飛ばそうとして使っていないです。宮殿の安全を守るために、魔法を使いました」
「そうです。犯人はいません」
捜査班は、質問した。
「女王様、協力魔法を使った人物以外に心当たりは?」
ルシーは答えた。
「ないわ。私の協力魔法を使えるのは、任命式に参加した者だけよ」
「聖騎士、いや、魔法騎士さん。宮殿の地下にブレスレットが落ちていたわ」
「おばあ様に女王に報告することができて感謝しているわ。あなたの魔法に秘めた想いのおかげね」
「いえいえ、とんでもない」魔法騎士が言った。
「ま、魔法騎士?」その場にいる者たちが目を見開く。
「茉希、推理を続けて」ルシーが指示した。
「魔法騎士が宮殿の安全を確認するために、現場から離れた。地下室まで安全点検をしに行った際、ブレスレットを落とした。このブレスレットが、アリバイ工作の証拠です。あなたは、現場から離れた地下室で魔法を唱えた。安全を強化するために。」
「その通りです。ご迷惑をおかけしてすいませんでした」魔法騎士は行った。
「明日は、女王様の任命式ですね」協力魔法を使った彼らが言った。
※※
そして、任命式当日。
「女王のルシーさんです」
「探偵の茉希さんです」
「おめでとうございます」ギャラリーから拍手が起こった。
「茉希さん、異世界の探偵になりますか?」
「はい」
盛大な拍手に包まれた。曇り空が晴れ空に変わった。
時には、相手を信頼できなくなることがある。それは、人それぞれ理由がある。茉希が異世界に召喚されたり、ルシーが人間界に飛ばされたり予想外のことが起こった。これから先、彼女たちは、予想外の事件に遭遇していくことになる。その度に、相手を信じることができなくなる時があるが、前に進んで、相手を信じてみることで、温かい気持ちを取り戻すことができる。異世界だって、人間界だって、信じることが大変であり、そして大切である。
【The story will return.】
(第12話終わり)
この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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第13話 「観光 番外編」
(本文)
異世界の探偵になってから、半年が経った日のことだった。
「あなたに案内したいところがあるわ。」とルシーに言われ、異世界を観光することを提案された。
話し合いの結果、日帰りで妖精使いのルシー、妖精のジェリー、探偵の茉希の3人で観光することが決まった。
「書庫には、探偵に関する文献があるわ。」とルシーに教えてもらった。
行き先は「書庫」だった。
異世界を案内してもらうことが決まり、茉希はワクワクした。
書庫に向かう途中、異世界の観光地を巡った。そこでは、魔法の陶器を作ったり、迷宮で滝がある温泉を探したり、お昼にレストランで美味しいご飯を食べたりした。
それから、3人は書庫に着いた。書庫には、探偵に関する文献がたくさんあった。そのほとんどが異世界の本であり、2人に助けてもらいながら読んだ。
書庫から出ると、辺りは暗くなっていた。その後、外でバーベキューをした。特に、焼いたマシュマロが美味しかった。
空気が澄んでいて、異世界の夜空には星が輝いていた。