海と花束 創作
小説「異世界探偵」
15コメント 2022/02/10(木) 16:37
  • 4  リン  2021/03/13(土) 07:35:00  [通報
    返信 削除
    第3話 「ルシーの使用人トルソーのブレスレット」

    (本文)
     窓にかかる風鳴りが、茉希の浅い眠りを破った。暗闇の中、布団を被ったまま耳を澄ますと、吹き寄せる風に乗って無数の水滴が窓ガラスにしたしたと流れる音が聞こえた。異世界では雨が降っていた。

     やがて、雲行きが怪しくなった。

     横でルシーが眠っている。この部屋には二つのベッドが並んでいる。1つはルシーのベッドで、別のベッドを茉希が使っている。窓を反らすようにルシーは寝返りを打っていた。


     茉希はこの異世界で探偵に任命された。



     どうせなら、転生したり召喚されたり異世界イベントが発生してもいいのに。

     現実世界で財布の持ち主を当てた茉希の推理力に感心して、ルシーの住む異世界に連れられた。


     ルシーは微動だにしない。

     しばらく物思いにふけていると、雨は降り続けているが部屋の中が明るくなった。


     ドアをノックする音が聞こえ、外から聞き慣れた声がした。

    「お嬢様、起床時刻です。」トルソーが言った。

     ふにゃあ、と声を上げて彼女は起きた。


    「トルソーおはよう」

     トルソーと呼ばれる人物は、彼女に今日の服装を渡した。トルソーは、彼女の使い人である。

    「あら、ありがとう。」
    「トルソー、いつものブレスレットを付けていないわね。」

    「お嬢様、目が利きますね。ここ最近、ブレスレットを何者かに奪われたんです。」

    「ん。名探偵の仕事が来たわね。」


    「…………!」

    「トルソー、茉希がブレスレットを奪った犯人を探してくれるわ。」

    「私、そんなこと一言も。」
     言ってません、という言葉を飲み込んだ。


    「ブレスレットを探してくれるんですか。ありがとうございます。」

    「その前に朝食に向かいましょう。」

     朝食を済ませた。バイキングだった。


    「あの、トルソーさん、ブレスレットをなくした時のことを覚えていますか。」

     トルソーは首をかしげて考え込んだ。

    「特に何も…。ただ、昨日の夜の任命式の時はありました。」
    「今日起きた時には、ブレスレットを付けていませんでした。」


    「それでは、任命式にいたギャラリーか任命式の時の聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女あたりが怪しいですね。」
     

     茉希がそう言うと、ルシーは口を挟んだ。

    「ギャラリーはブレスレットを奪えないわ。」

    「それはまた、なぜですか。」

    「ギャラリーが帰った後はトルソーはブレスレットを付けていた、と証言するわ。」

    「そうですか。実はこのブレスレット亡き妻の形見なんです。」

     昨日の任命式にいた聖騎士、精霊使い、魔王、回復術者、魔女を会議室に招集された。

     この5人のうち、魔女と回復術者は腕にブレスレットを付けていなかった。

    (第3話終わり)
記事・画像を引用