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「8月9日」
8時48分。私こと世羅は目が覚めた。
が、出勤時間まではまだ時間がある。
安心してまた再び眠りにつく。
9時20分。タイマーが鳴った。
タイマーより先におばあちゃんが3階から2階へと降りてきて、声を掛けてくるが無視、無視、無視。
私は1分たりとも睡眠時間を逃したくはない。
さて、そろそろ仕事へ行く支度をしなくては。
おばあちゃんも私と同じ職場で支度をしに降りてきたのだった。
「暑い、暑い」
それが彼女の口癖だった。
大体人が暑いと言うとき、私は暑さを感じていない。
いつも通り適当に「ほお」と相槌を打っておく。
この暑いと言う独り言以外にも私は「ほお」と相槌を打つ。
朝は誰とも話す気になんてなれないからだ。
おばあちゃんが私があまりにもほお、ほおと言うのでおかしくて笑っている。
今日の朝ごはんはベーコンと、チーズの入った卵焼き。
実は仕事終わりにチーズを電子レンジでチンして食べようと思っていたところだったけど、それは諦めよう。
チーズを2枚も食べてしまえば中性脂肪が上がりかねないんだから。
「お茶、今日4本買わないとかな」
おばあちゃんがそう呟いた。
「いや、私は1本でいいよ」
今日は雨が降っていて、いつもより涼しい。
それに暑い日でもお茶は大体2本目にいかなかったりする。
お茶とはペットボトルのお茶のことだ。
「じゃあ、私も1本でいいかな」
9時40分。
そろそろ家を出る時間だ。
私達はバスへの待ち合わせ場所へとむかう。
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待ち合わせ場所についた。
この待ち時間が意外に長い。
やがて、10時00分。
バスが来た。
私はいつもよりバスに乗るのに緊張していた。
今日の前日、コロナワクチンを受けて副反応で休んでいたからだ。
みんなにそれについて何か聞かれるんじゃないかと。
私は会社に行かなかったけどおばあちゃんは会社に行っていて、副反応で休んだということにしてと、お願いした。
おばあちゃんなら話を大袈裟にしかねないため、私の話とおばあちゃんの話が食い違ったらどうしようと、不安であった。
本当の今日の前日に休んだ理由は、auショップに行って一刻も早くスマホを買い換えたかったからだ。
しかし、機種変をしたい人は私の他にもいっぱいいて、結局8月15日にもう一度行くはめになってしまったが。
コロナワクチン副反応について聞いてきたのは、松田さんと本田さんと社長だった。
私は「腕が少し痛くて、37度4分くらいの熱がでました」と答えた。
嘘ではない、真実だ。
だが、全く症状は重くなく、休むほとでもない。
「今は痛くないの?」
そう聞いたのは本田さんだ。
「はい、痛くないです」
「社長もね、40度くらいの熱が出たそうですよ」
次に松田さんが言う。
「うわぁ……」
私と全然違う高熱じゃないか。
あとおばあちゃんによれば社長は、変なところに打たれてしまったのか、打った途端に腕が異常にぴーんと上がってしまったらしい。
痺れもあったそうだ。
さぞ痛かったことだろうな……。
「それから女の人の方が重症化しやすいらしいですよ」
私と松田さんは和室の布団を作りながら話をしている。
「そうなんですか?男の人は重症化しないのか」
「ええ、男の人はなんかもうまくえんとかになるらしいですよ」
もうまくえん……?
もうまくえんってなんだろう?
私にはどんな病気なのか分からなかったが、聞くことはしなかった。
それから松田さんはワクチンを3回打つことになるかもしれないことと、ワクチン接種のせいで死んだか分からないけどその後の死亡者が1000人も出ているという話をしてくれた。
ワクチンを打ったら死ぬって話は聞いたことがある。
デマじゃないかって思ってるけどどうなんだろう。
ワクチン接種3回目の話は初めて聞いた。
2回目で副反応が1回目よりひどくなってるから、3回目じゃ更に更にひどい副反応が出たりして。
ワクチン接種3回目なんて絶対打ちたくない。
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「そういえば東世羅町って、ワクチン接種早いんですね」
「人が少ないからですかね?」
松田さんは笑った。
掃除機をかける部屋はあと3つ。
たった3つなんだけど、注射のせいか、暑いせいかすごくだるい。
誰か代わりにやってくれないかなぁ。
掃除機は私を含めて2人いるから、残り1部屋か、残り2部屋。
多い方をやる可能性は十分にある。
たった1部屋、されど1部屋。
2部屋をかけたのは古池さんだった。
あー、よかった、やっと終わった。
今日掃除をした部屋は全部で53件。
それほど多くはない。普通くらいだ。
多いときは60件とか70件とかそのくらいいく。
コロナが流行ってからは70件近くをやることはほぼほぼない。
大体40件か、50件か。良くて60件。
私としては少ない方が楽だから助かる。
いや、少なくても結構疲れるから全然楽ではないんだけれど。
掃除が終われば次は片付け。
休憩室に戻り、ごみ袋を持って、ほこりを払う場所に向かう。
ほこりを払う場所はベランダのような所だ。
風の向きによって体を動かしながら、ほこりを払う。
そうでなければほこりが自分の方にやってきてむせてしまう。
ほこりは綿のようにたくさん出てくる。
払い終わり再び休憩室へ、掃除機を置きに行く。
すると、古池さんがいた。掃除はどうやら終わったようだ。
「お疲れ様」
始めに古池さんが挨拶する。
「お疲れ様です」
次は古池さんがほこりを払いに行く番だ。
いつも1番先に掃除機が片付けをして、次にチャキ、仕上げさん。
ほこりを払い終わったら次はトイレに行く。
トイレから戻って、チャキさんがまだ片付けが終わってなければ「これお願い~」と、お茶っぱを袋に詰めるのを頼まれたりする。
もしくは和室用のカートのトイレットペーパーの補充をする。
今日はどちらも大丈夫そうだ。
14:00。みんなは休憩室に集まっている。
全員の片付けが終わった。
「明日は11時です」
「はーい」
社長が時間を告げ、バスを取りに先に外へ向かう。
少しして私達もバスへと向かった。
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会社の外に出るとたくさんのたんぽぽのような花が咲いている。
おばあちゃんと松田さんによるとあれは外来種のたんぽぽらしい。
日本のたんぽぽよりは小さくて可愛いらしい感じがする。
私達はいつもバスを坂道で待っている。
その坂道にもあの外来種のたんぽぽが咲いていた。
「うわ!このつるすごく太い!ヘビみたい」
と、川口さん。ヘビたんぽぽの第一発見者だ。
「本当だ、気持ち悪い!育ち過ぎだよ」
川口さんの声に促されて見てみた唐川さんもヘビのようだと気持ち悪がっている。
私もどれどれ、と見てみた。
確かに茎は普通のよりも随分と太いけれど、ヘビには見えなかった。
んー、ヘビ……?
「うちヘビ飼っていますよ」
川口さんと唐川さんの会話を聞いていた松田さんが会話に混ざった。
「え?飼ってるんですか?」
驚いた川口さん。
「もう飼って14年くらいになるからそろそろ寿命だと思うんですけどね」
ほー、そんなに長くいるんだ。
「え、エサとかはどうしてるんですか?」
川口さんが質問する。
「通販で冷凍ねずみを買っています」
「ええー!!」
驚く一同。
私も驚いた。
ねずみなんて冷凍されていたとしても絶対触りたくないなぁ……。
そんな会話をしているとやがてバスが来た。
バスの入口でアルコール消毒をして席に着く。
私の席は運転席を除いて前から4番目の右側の席だ。
社長がエンジンをかけてバスを走らせた。
私の席から斜め左の左側に座る萩野さんが「はいよ」と、3色おやつパンを私にくれた。
私の席の後ろに座っている川口さんにもあげていた。
「ごちそうさまです」とお礼を言う。
3色おやつパンはあんこ、チョコ、カスタードの3色の味を楽しむことが出来るセブンイレブンのパンだ。
やったー、カロリーは377カロリーもあるから明日のお昼にしよう、と鞄にしまった。
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バスに乗っている間はいつも考え事をしたり、おやつを食べたりしている。
おやつはもう食べ終わった。いつものおにぎりと貰ったおせんべいとチョコレート。
少ないと思うかもしれないがこれだけでも十分お腹いっぱいだ。
さてさて、そろそろ考え事を始めようか。
今日は私の席から左隣の左側に座る角山さんのことを考えていた。
今日は角山さんの席に角山さんは座っていない。角山さんは休みだった。
少し朝まで時間を遡る。
10時40分。会社について従業員入り口に入った。
入り口に入るとお手洗いがあり、みんなそこで手を洗ってアルコール消毒をしていく。
そのため順番待ちの列が出来ていた。
工藤さんと本田さんが角山さんの話をしている。
まず工藤さんが「角山さん、今日お休みなんだね」、と本田さんに話しかける。
工藤さんは大体の人には敬語だけれど本田さんとは仲がいいのかタメ口だ。
「無理して3日?だっけ?来て、土曜日動けなくなっちゃったの。無理しなきゃいいのにねぇ~」
本田さんは誰でも敬語を使ったりタメ口を使ったりしていたような気がする。
「ええー、そうなんだ~、じゃあ大変だったね。動けなくなったのは仕事中でしょ?それからどうしてたの?」
「仕事が終わるまで休憩室にいたよ~。もうバスに乗るのも降りるのも大変だったみたい。
運転とかどうやったんだろうね?アクセル踏む時とか痛くならないのかな」
「案外乗っちゃえば大丈夫だったりするのかもね?」
その会話を聞いていた山本さんが笑っていた。
山本さんは角山さんのことがあまり好きではなく、動けなかった角山さんがあまりに滑稽だったのかもしれない。
7月30日の金曜日、私が丁度休んでいた日に角山さんは怪我をした。
待ち合わせ時間より早くバスが来てしまったため、慌てた角山さんはすってんころり。
その日は頑張って痛みを我慢しながら仕事をしていたようだ。
珍しく山本さんが角山さんのことを心配していて、角山さんは嬉しそうにしていたとおばあちゃんが言っていた。
その日から8月4日の水曜日まで角山さんは来なかった。
久しぶりに来た角山さんはおばあちゃんに怪我した足を見せていた。
足元がひどく真っ黒になっていた。
「もうね、あれからね足がパンパンに腫れちゃったの!」
「うわぁ~、すごいですねぇ…!!」
おばあちゃんと共に私も驚く。
どれだけ盛大に転んだことなのだろう。
ちょっと見てみたかったかもしれない。
角山さん、足が治るのは一体いつになるんだろう。
15時00分。
考え事をしていたらいつの間にかバスが家の前に着いていた。
「お疲れ様でした」と言い合いながら、西山さん、おばあちゃん、私、古池さんの順でバスから降りる。
降りて再度西山さんと古池さんに「お疲れ様です」と言って、私達は家に入った。
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家につくとすぐ、2階にあるNintendo Switchを起動させた。
Nintendo Switchで私がするカセットは「ジャックジャンヌ」だ。
ジャックジャンヌとは、女子禁制のユニヴェール歌劇学校に性別を偽って入学した女の立花希佐が主人公の恋愛ゲームだ。
攻略対象キャラクターは6人いる。
6人中3人は既に攻略済みだ。
主人公より1つ年上の白田先輩に、幼馴染で同い年の創ちゃん、2つ年上のカイ先輩。
残る攻略対象キャラクターは同い年のスズくん、2つ年上のフミさんと根地先輩。
現在、私が攻略しているのはその中の内の一人、根地先輩である。
私はタイトル画面からロードゲームをタップし、14番目のセーブデータを選択する。
ゲームが始まる。
季節は12月。主人公達は冬公演の準備中だ。
冬公演は12月24日に上演され、上演されるのは「オー・ラマ・ハヴェンナ」。
タイトルの説明をしておこう。ラマは愛するという意味で、ハヴェンナは街の名前。
次は舞台の内容を説明しよう。
嘘を隠し続けるルキオラと、その嘘が許せないチッチ、その二人が織りなす友情物語。
これが今回上演する舞台、オー・ラマ・ハヴェンナである。
この公演に主人公立花希佐は頭を抱えていた。
彼女が演じるのは嘘を隠し続けるルキオラ。
そのルキオラは女役だった。
女役を演じるのは新人公演の時以来。
夏公演で男役を経験してからは自分が女であることを隠すため、普段からも男を演じるようになった。
そんな彼女だから今更女を演じるのが怖くなり、女役を思うように演じれなくなってしまったのだ。
それからルキオラは、性別を偽ってこの学園に入学した彼女そのものである。
嘘がばれてしまったルキオラはチッチに舞台の練習をする度に拒絶される。
このことが、彼女のもしも女であることがばれてしまったらの不安を更に加速させ、彼女を追い込んでいった。
もしも女であることがばれてしまったら校長先生との約束により、ユニヴェール歌劇学校にはいられなくなる。
それは演劇が大好きな彼女にとっては何よりも辛いことだった。
そんな彼女を、根地先輩は気にかけ、声をかける。
いよいよ5番目の恋愛イベントが発生した。
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希佐は根地先輩に作業部屋に連れていかれる。
「あのとき君は、なにが足りないのか全く分かっていないようだった。
でも今は……知っているよね?」
「……『女』を演じるということです」
「ああ、そうだ。
まず、絶対に忘れないで欲しいのは、僕は君の才能を認めていて君ならルキオラを演じられると信じていることだ。」
「でも君は、同じ場所から動けずにいる」
「すみませ……」
「だから引き出そうと思う。僕が」
根地先輩は希佐に即興劇を持ちかける。
「君には女を演じてほしい。僕は男を演じる。
男として女の君を口説き、求める」
「えっ……?」
希佐は突然のことに困惑している。
「あらがってくれてもいいよ。僕は君を抱くつもりでいく」
「……?!ま、待ってください、根地せんぱ……」
根地先輩は本気だ。
話を進めていくと、根地先輩の顔がどんどん近づいていって、希佐とキスしそうになる。
「……!」
突然、根地先輩は希佐を避けるように身を引いた。
何だか違和感がしたのだ。
女を演じている男とキスしかけたはずなのに、まるで本物の女とキスしかけたような。
即興劇は中断になり、結局キスはせずに終わった。
この恋愛イベントを終えて私は思った。
何だかえろいし、ほもほもしいなぁー、と。
もしも希佐ちゃんが女じゃなくて男だとしたら即興劇は中断されることなく男同士でキスしちゃってたじゃないか、とか。
まあ、そもそも主人公が男だったとしたら、女役に悩む理由はなかったと思うから、このイベント自体が存在しなかったことになるわけだけども。
妹によると、根地先輩の恋愛イベントが面白くなるのはこれかららしい。
本当なんだろうか。
次の恋愛イベントはクリスマスか、もうすぐだ。
恋愛イベントを終えて一区切りがついたところで、17時39分。
私はスマホ画面を覗いて見た。
14時02分に兄貴から東京タワーの写真が送られてきていた。
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東京タワー、最初は東京タワーだと確信が持てなかった。
どこからどう見ても東京タワーだったけれど、江ノ島タワーの可能性もなくはないかな、と。
「お、昨日行ってきたの?」
「うん昨日」
写真の東京タワーは虹色にライトアップされていた。
そのライトアップがアニメで見た江ノ島タワーに似ているような気がしたから、私は確信を持つことが出来なかったのだ。
東京タワーは普段は虹色にライトアップされていたりしないという。
オリンピック期間限定でそのような色になっているようだ。
なんだ、そうだったのか。
東京タワーなんて小学校の遠足だか、社会科見学に行ったきり見たことがない。
東京自体、2、3回くらいしか行ったことがなかった気がする。
「いいなー、私も東京タワー見に行きたいな~」
ふと視線をスマホからテレビに移してみると、偶然テレビでも東京タワーが出ていた。
番組名は「Youは何しに日本に来たの?」だ。
今回はイギリス人のヒロさんが紹介されている。
「テレビでも東京タワーが出てた!
大阪から東京までキャンプしながら歩いて行くんだって」
「くそ遠いな」
「うん、24日もかかってたもん」
食いしん坊だと言われそうだから言わなかったけど、道中のウドの天ぷら美味しそうだったな~。
ウド、別にそんなに好きではないけど、揚げている姿や揚げている時のジュワジュワ音を見たり聴いたりしていると美味しそうだな、と思う。
番組が終わる頃、再び兄貴から別の写真が送られてきていた。
「これは、公園の砂場の写真……?」
「いや、エジプト」
「いやいや、無理があるよ(笑)どうみても公園の砂場!エジプトに謝りなさい!(笑)」
兄貴とそんなやりとりをしていると時刻は18時00分。
まだ夕飯まで時間がある。
またさっきやっていたゲーム、ジャックジャンヌを起動させた。
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1度見たストーリーは早送りすることが出来るから便利だ。
冬公演まで一気に進めていく。
さあ、冬公演のとこまで来た。
冬公演、感動するとても良いストーリーなのだけれど、やっぱり何度も同じストーリーを見るのは飽きるから、それも飛ばしてしまおう。
冬公演を恐らく私は2回くらい見たことがあるだろう。あるいは3回か。
大体どの公演も2回は絶対見ている。
ストーリーはスキップ出来るのだけれど、合間に挟まれるリズムゲームはスキップすることが出来ない。
スキップ出来れば良かったのだけど仕方がない。
私はいつもリズムゲームはeasyモードでクリアしている。
ssランクが取れなければストーリーに影響が出てしまうためそれを恐れて、絶対クリア出来ると自信のあるeasyモードを選択していた。
だけど今日は気分転換にeasyモードより1つ難易度が上のhardモードをやってみる。
1曲目は「オー・ラマ・ハヴェンナ おお、愛するハヴェンナよ」、歌唱曲だ。
リズムゲームには歌唱曲とダンス曲があり、歌唱曲はラインに沿って、左に移動させたり右に移動させたりするだけの単純なゲームだ。ボタンを2つ使う。
ダンス曲はちょっと難しい。ボタンを4つ使い、それぞれアイコンが重なったタイミングでボタンを押す。
1曲目のオー・ラマ・ハヴェンナは私の好きな曲だ。
「駄馬駄馬駄々ったら 茶ぱや茶々っぱっぱ茶っぱや」の部分が特に好き。
そして、hardモード、難なくクリア!
続いて2曲目、「懺悔室で激しくダンス」、ダンス曲。
この曲はタイトルの通り激しい曲で、もしかしたら全楽曲の中で一番難しい曲かもしれない。
hardモードよりも1つ上のextlaモードはこの曲では恐ろしいのでやめとこう。
さっきと同じのhardモードにしておこう。
曲が始まる。
丁度良い難しさだ。
やがて曲が終わり、何とかクリア。
もしもこれをextlaモードにしていたらクリアすることは出来なかっただろう。
3曲目、最後の曲だ。歌唱曲で「淡色」。
その曲の希佐ちゃんと白田先輩が交互に歌うところが好きだ。
ゆっくりめな曲。ゆっくりめな曲だからextlaモードでいってみたいと思う。
ゆっくりといっても油断は出来ない。
休む暇なく細かくノーツが配置されているため、うかうかしているとクリア出来なくなる。
私は神経を研ぎ澄まし、プレイする。
extlaモード余裕でクリア!
これで3曲全てが終わり、冬公演も終わった。
「ああ、楽しかった」
公演中のリズムゲーム、もっと早くに色々なモードに挑戦してみればよかった。
「せらー、ごはんだよ」
おばあちゃんに呼ばれる。
「はーい」
18時40分。いつの間にか夕飯の時間になっていた。
私は2階から1階へごはんを食べに降りていった。
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1階に降りると、
「見てみて~、虹を撮ったの!」
と、母と妹に話しかけられた。
2人は私とおばあちゃんのように同じ職場で働いて、たった今帰ってきたところだ。
私も昔は2人と同じ職場で働いていた。
母のスマホを見てみると、虹とは言い難い光のようなものが映し出されていた。
「ちょっと上手く撮れなかったけどね」
母が言う。
「たしかにね」
私が同意する。
でも田舎の田んぼの景色はすごく綺麗に撮れていると思った。
さてさて、今日の夕飯はナスとインゲンのおひたしと、鶏肉とネギの煮込み、さばの塩焼きとごはんだ。
「いただきまーす」
私は大皿に盛られているさばの1つを小皿に取る。
そして口に入れる。
うん、さばはやっぱり美味しい。
「魚で1番美味しいのってさばじゃないかな?」
と私が言うと、
「え?まぐろは?」
と妹が反応した。
「まぐろといえばお寿司だもん。
さばのお寿司は酸っぱいから嫌だ。
塩焼きの中で1番美味しいのはやっぱりさばでしょ」
昔は鮭の塩焼きが1番美味しいと思っていたが、今はさばだ。
次になすを食べる。
「うーん」
ナスを食べる時いつも喉が少し変な感じがする。
「どうしたの?」
おばあちゃんが私に声を掛ける。
「もしかしたらナスはアレルギーかも」
「おばあちゃんも昔そうだったよー、今はもう治ったけどね」
「そうなんだ、食べるの控えた方がいいかね」
「うん、そうしときなー」
美味しいけど仕方ない。我慢しよう。
夕飯を食べ終わると「ごちそうさまでした」と言って、2階へ戻る。
私より先に母が食べ終わっていて、部屋のテレビがついていた。
ちょっと、音がでかい……。
リモコンを手に取り、音量を確認してみると、
なんと音量は20もあった。
私は15くらいまで音量を下げる。
昔は母も音量を14くらいでテレビを見ていたのに、イヤホンばかりつけているせいで耳が悪くなってしまったんだろうか。
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19時00分。
さて、また暇になってしまった。
暇になった時にすることは大体決まっている。
アニメを見るか、マンガを読むか、ゲームをするか。
今日はゲームに統一する。カセットも同じやつだ。
ジャックジャンヌをやるのはこれで3回目。
夕飯前にしたリズムゲー厶がすごく楽しくて、難易度をもっとあげてプレイしたくなったのだ。
私はタイトル画面からギャラリーを選択する。
そして更に7つある選択肢からリズムアクションを選択した。
リズムアクションとは本編でプレイしたリズムゲー厶を好きな時に好きなだけ遊ぶことができる場所だ。
実はこのリズムアクションのみプレイ出来る難易度がある。
extlaモードよりももっと難しいjack jeanneモード。
まず始めに歌唱曲のDepartureに挑戦してみる。
1度目はSランク。
あと一息でSSランクだったのでもう一度やってみると、次はSSランク!
これがクリア出来たのだから、他の曲だって簡単にクリア出来るようになっただろうと私は思ったのだが、難易度を見てみるとだ。
この曲はjack jeanneモードで一番簡単な曲らしい。
私はがっかりした。
曲のスピードが速かったし、十分難しい曲だと思っていたのに、これで一番簡単なんだとは。
次は冬公演でプレイした歌唱曲の淡色に挑戦。
だめだ、何度やってもSランク。
この曲もあと一息なところなのに。
そんな私を見ていた妹が突然私に「貸して!」と言ってくる。
仕方がないやらせてみよう。
「いいよ」
妹も私と同じようにギリギリSSランクまでには届かない。
やっぱり妹でも無理か、そう思っていたら、
「やったー!」
私よりも先に淡色のSSランクを取ってしまった。
「くそう」
喜ぶ妹、悔しがる私。
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リズムゲームを遊んでいるうちに次は私は、リズムゲームの歌を歌いたくなってきた。
まずはアカペラで!!ゴーストパーティ!!や、我らグレートガリオンを歌ってみる。
「俺たちゴースト死なないゴースト♪」
「男は大波に乗れ♪女は壮大にきれ♪」
!!ゴーストパーティ!!の次に歌った、我らグレートガリオンの歌詞は空耳のため恐らく正確ではない。
正しい歌詞はゲームにも載ってないため、調べてみないことには分からない。
他にも鈴かけの木をこえてや、Departure、様々な歌を歌ってみる。
やはり歌うのは楽しい。
これがカラオケにあったら絶対歌っていたのに。残念ながらカラオケ店には収録されていなかった。
複数人で歌う曲が多く、採点が厳しいためかもしれない。
歌うのに十分満足してくると、その次は自分以外の人が歌っているところを聴いてみたくなった。
SwitchではYouTubeを使うことも出来る。
スマホでもデータ量無制限で気にせず視聴することが出来るが、今日は大画面のSwitchで聴くこととしよう。
曲を聴くだけなのだから大画面であることは一体何の意味を持つのかと疑問に思うかもしれないが、まあ気にしないでくれたまえ。
私という人間は実に無駄が多い生き物なのだ。
SwitchのYouTubeを起動し、検索バーで「ジャックジャンヌ 歌ってみた」と入力する。
ジャックジャンヌの全部の曲の歌ってみたはなかったが、少しでも動画が投稿されていたことを嬉しく思う。
投稿されていた動画の中には私の好きな我らグレートガリオンもあった。
あまり興味のない、なまえのないともだちもあった。
聴いてみた感想は、歌う機器がしっかりしていたならもっと良い動画になっていただろうなというところ。
簡単に言えば満足具合は普通ぐらいか。
機器と編集がしっかりしている動画も1つだけあった。
OPを歌っていて、2つのパートを1人で歌って組み合わせている。
それはやはり聴いていてクオリティが高いと思った。
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時は経ち、23時00分。
母が部屋の掃除を始めている。
掃除機のガーガーという音が辺り一面にする。
テレビがついていたとしても、テレビの音が聞こえることは無い。
さあ、私は今のうちにお風呂に入ってきてしまおうか。
残念なことにお風呂のシーンについて詳しく書くことは卑猥なため、カットさせていただく。
だがこれだけは書かせてほしい。
頭と体、どっちを先に洗うかと言われたら頭だ。
体は腕から洗う。
風呂に入って10分後、私は風呂から出た。
風呂から出た頃には掃除機はもう掛け終わっていた。
私は濡れた髪を乾かすためドライヤーを手にした。
ドライヤーが掛け終われば、歯磨きをして、そうすればもう眠りにつける。
だけども、私はふと思いついてしまったのだ。
今日の出来事をネタに小説を書いたらきっと面白いんじゃないかと。
思いついてしまったものをすぐさま行動に移さずにはいられなかった。
私は無駄の多い人間であり、時に行動力のある人間であった。
私は落書き帳を取り出し、今日体験した出来事をこと細かく箇条書きにしていく。
ただ箇条書きにしていくだけなのに、時はあっという間に1時を過ぎていた。
何とか書き終わる。
ああ、明日が楽しみだ。
明日はこの落書き帳のメモを使用して、本編を執筆していくのだ。
一度にたくさんは書けないだろうから、一場面ずつ好きな時に書いていけばいいと思っている。
さて、もう寝ようか。
寝れば8月10日がやってくる。
まあ、それは執筆している私の話であって、
物語の中にいる私の事ではない。
物語の中の私が寝ても迎えるのは「8月9日」。
物語が更新される事があるならば、8月9日以外の日がやって来るが、そうでなければ永遠に8月9日を過ごし続けることになる。
1日1日が規則正しくやって来るって、どんな感じなんだろうか。
私にはそれを知ることが出来ない。
さあ、本当にもう寝てしまう。
「おやすみなさい」
また、今日の朝、会いましょう。
8月9日1時48分、私こと世羅は眠りについた。
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「7月8日のハンバーグ」
やあ、お久しぶり、しばらくぶり。
やっと8月9日のループから抜け出せるんだね。
抜け出せるというか正確にはループする日にちが一日増えただけなのだけど。
それも丸一日じゃなくて、お昼の時間だけ。
それでも嬉しいな。
いつもお昼はおにぎりとお菓子だったから、違ったものが食べたいってずっと思ってたんだ。
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今日はお昼ご飯を買いに行かなくてはいけない。
ストックしていた佐野ラーメンは全て食べてしまったし、冷蔵庫の中身もからっぽだ。
ずっと前に佐野ラーメンと一緒に干し芋をもらったから賞味期限前になにか調理でもして食べておきたいけど、作るのってめんどくさい。
お店で食べるという案もあるけど、メニューが決まって店員さんに声を掛ける。
それが苦手だからあまり行きたくない。
店に入るのも勇気がいるし、結構お高いし。
だから私はコンビニでお昼を買う。
家にはパン2個と小盛のごはんがあるからおかずだけ買えばいい。
私がまず目に付いたのは、チーズとトマトのハンバーグだ。
美味しそうだけど400円。結構高い。
そのハンバーグの上にあったハンバーグは200円でそっちの方が断然安い。
安い方がいいけど、食べたいのは高い方だからとりあえず食べたい方を優先にして買い物を続ける。
ハンバーグ一品だけでは物足りないからあと一品追加したい。
サラダ、うーん。
ドリアにグラタン、うーん。良さそうだけどハンバーグと同じ値段がして高いな。
おお、フォカッチャの生ハムチーズのサンドウィッチ美味しそう。
でもそういうの食べた方があるから今回は我慢しようかな。
ちょっと硬そうだし、パンて消化にあまり良くないし。
こっちの冷凍コーナーにもいいおかずがあるんだよね。見てみようか。
お!!鉄板焼きハンバーグ!美味しそう。それに安いし二個も入ってる!
よし、チーズトマトハンバーグはやめにして、そっちにしよう。
それからこのコンソメスープを買ってと。
よし、決まった!
私はレジに向かう前に財布からお金を取り出す。
先に出しといた方が会計がスムーズに終わるからね。
700円くらいあればいいかな。
レジで示された金額は670円、うん私の勘は当たってたみたい。
こうして家に帰った私は美味しくハンバーグを食べたのでしたとさ。
めでたしめでたし。