海と花束 創作
創作板は協議の結果しばしβ版として運用する事になりましたので、それに伴い急な仕様変更等でご迷惑をおかけするかもしれません(´;ω;`)
申し訳ございません
また、誠に勝手ながらご了承を頂ければ幸いです
灰の夜
5コメント 2021/08/26(木) 01:53

  • 1  炎穂  2021/08/17(火) 20:01:25  [通報
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    昔構想練ってそのまま忘れてた小説です。
    グダグダの可能性大。生暖かい目でご覧いただけたら幸いです。
    では。
  • 2  炎穂  2021/08/18(水) 01:03:48  [通報
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    黒板の上にある時計をふと見ると、時間はまだ十分も経っていなかった。
    この時間はいつまで続くんだ、と藤宮瞬は思った。最近、授業の時間が無限に続くような感じがしている。教師に目をつけられないようにそっと教室を見渡す。無機質な蛍光灯が教室を等しく照らす中、大半は授業を真面目に受けている様だった。居眠り、スマホを構っているやつは居たが、ごく少数だった。
    瞬は内心溜息を吐きながら今度は窓の外を見た。太陽を遮る灰色のビル群が見えた。しかし、人通りは驚くほど少ない。平日の昼間なのだからしょうがないのかもしれないが、その光景はやけに虚しく、瞬の心に響いた。
    あぁ、自分はなぜここにいるのだろう、みんなと一緒のはずなのに、自分だけ切り離されてしまったような孤独感を感じるのはなぜだろう。なぜ、なぜ、と瞬が自問自答している間だけは時間は早く進んでいった。
  • 3  炎穂  2021/08/18(水) 05:09:17  [通報
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    なぜ、なぜ、と物憂げに瞬が考えに耽っているあいだ、授業は進んでいった。
    「よって、この例題の解き方は……」
    教師の淡々とした喋りとチョークの音が教室に響く中、キーンコーンカーンコーーン、とチャイムが鳴った。
    「え~~と、この続きはまた次回、」
    きり〜〜つ、だるいような号令がかかり、みんながいすをガタガタ言わせながら立ち上がる。その音で現実世界に戻ってきた瞬も慌てて立ち上がる。
    れい、あざした〜〜〜、いい加減な挨拶を終え休み時間に入る。
    味のしない弁当をさっさと平らげ、瞬はスマホ片手にまた考え事に戻ろうとした。と、「おーい、瞬。バスケやろーぜ。」と友人から声がかかった。
    「おっけー、ちょっとまって。」
    「うぃ、はやくしろよ。」そう言って友人は走り去っていった。
    ゴソゴソかばんの中に弁当箱をしまいつつ、
    「……実はこれを待ってたのかな、俺。」とよくわからないことを呟き、走っていった友人の後を追いかけた。
    蒸し暑い体育館に着くと、友人たちがボールを持って待っていた。
    「おせぇーぞ」
    「そんな遅かねーだろ」
    あはははと、皆笑った。
    「まーいーや、早速チーム分けだ。」
    「おけ。」
    チーム分けが終わり、いざバスケが始まると、友人たちの目は豹変した。遊びとは思えないくらい闘争心に満ち、勝利に貪欲になった。キュッ、キュッと内履きのゴムが床を鳴らす。敵がどんな配置になっているか、目線はどこを向いているかを観察し、どこにパスを出すべきかなど知略を巡らせている間にも、瞬の心はどこか遠い場所にあった。
    パスを回すときも、ドリブルしているときも、シュートしようとしている瞬間でさえも、瞬は自問していた。自分がしたいことはこれなのかな。自分は何を求めてるんだろう。と。
    答えの出ない問と瞬が格闘してる一方、今言えることは瞬が放ったシュートは外れたということだけだった。
    「あー!すまんッ!」
    リングからこぼれ落ちたボールを追いかけ嵐の様に駆け抜けていった猛獣の群れに、瞬は一人叫んだ。そして再び群れに突っ込んでいった。
    試合は、一進一退、といったところでチャイムが鳴った。
    「あー、今回は引き分けか〜?」
    「早く準備しねぇと。あの物理教師ブチギレる。」
    「あー、お疲れ様〜」
    「てめぇ」 
    ギャハハハハハハとうるさく笑い合う友人たち。
    「ごめんシュート外しちゃって」
    と、瞬はさり気なくチームメイトに謝罪した。
    「外したの瞬だけじゃねーし。気にすんなよ」とある友人が瞬の肩をばしんと叩く。
    でも、とその友人は続けた。
    「ボールの片付けよろしくな!」
    と言うや否や猛スピードで走り出した。おそらく彼のクラスの次の授業が物理だからだろう。残された瞬は一人、溜息を吐いた。
    何か鈍い痛みが瞬を包んだ。
  • 4  炎穂  2021/08/21(土) 02:33:06  [通報
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    その後の授業は午前と変わらず、淡々と、粛々と進んでいった。
    その間の瞬の様子は言うまでもないだろう。
    瞬のノートにはうねうねとした文字とも言えないような何かが無数に這い回っていた。瞬は終始黒板を見ていた。というより、黒板の奥にある探そうとしていたという方が正しいだろう。瞬の視界の外では、午前中太陽を遮っていたビル群が、今度は太陽の光を反射してキラキラと煌いていた。
    やがて授業が終わり、教室から人が少なくなり始めた。
    それぞれがそれぞれのことを話しながら、いなくなっていく中、
    「……終わった、空費した」
    瞬は口だけで呟いた。
    「おーい、瞬。これからマック行かね?柳も小田も来るって言ってるけど。」
    ドアの方から聞き慣れた声がした。昼、誘いに来た友人だった。
    瞬はうーん……と唸り、悩むふりをした、そして決められた答えを放つまでの時間を稼いだ。
    「あー、今日はいいや。俺勉強しなきゃいけないし。」
    「おーっけ、じゃーなー勉強がんばれよ。」
    と友人は少し茶化したような口調で言い、消えていった。
    そうして瞬だけが教室に残った。
    一人にいるには広すぎる教室を蛍光灯が静かに、眩しく照らす。
    そして瞬は教科書やノートを再び広げ始めた。
    先の授業でノートに現れた黒い線を消しゴムで強く擦る。
    そして白さを取り戻したノートに再び文字を刻んでいく。教科書にマーカーを引き、定規をノートにあてがい、整然とまとめていく。カチカチと時計の針の音が大きく聞こえるほど静まり返った教室で、瞬は独り言を言った。
    「あー終わった、色々終わった。」
    「こんなもんでいいかな」
    しばらくするとノートには今日の授業内容が一通りまとめられていた。
    「よし、これでなんとかなるだろ。」と瞬は独り言った。
    そして、ゴソゴソと教科書、ノート、筆箱などをカバンにしまっていく。最後に自分のスマホをポケットにねじ込んで、ついでに教室の電気を消す。外は、日が落ちかけていて、ビル群は所々に黄色い光を身につけていた。
    そんな景色をちらと見て独り瞬は帰路についた。
  • 5  新月  2021/08/26(木) 01:53:11  [通報
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    瞬が校門から出ると、あたりに人は誰も居なかった。
    少し残念な気持ちになった。そのまま駅へと続く坂道を下っていく。
    晩御飯だろうか、周りの住宅から料理の匂いがする。カーテンの隙間からテレビの前で楽しげに笑う母娘がちらと見えた。そんな光景を目の端に映しながら、瞬は溜息を吐いた。
    皆なにかとつながっている。でも、俺は違う。何とは言えないけど壁が存在してる。とてつもなく薄く、けれども厚くて固い壁が。と、瞬は毎度の如くそんなことを頭の中で呟いた。
    彼がが覇気もなく下っていく坂道を街灯と冷えた太陽が照らしていた。
    坂を下りきり住宅街を抜けるとだんだん高層建築が目立ち始めた。
    それと同時に人の往来が増えてくる。申しなさげな口調で電話している会社員、ふざけたことでキャーキャーと大きな声で笑う女子高生が瞬の横をかすめるように通り過ぎていった。
    瞬は彼らから身を守るかのように肩を若干縮こませながら駅に歩いていった。
    さっきのような人と何回か遭遇しながらも瞬は駅に着いた。外よりかなり混み合って様々な情報が垂れ流されているホームを抜け、そのまま駅の改札口へと向かう。目的の改札付近に人はあまり居なかった。瞬は今度はホッとしつつ、ポケットからスマホを取り出して改札を通る。
    その後、駅のホームで電車を待った。時間にして十五分ほどだっただろうか。
    小洒落た駅とは裏腹な、昭和感漂う列車が二両編成でホームに滑ってきた。
    「十九時三十分発、駒瀬行が参ります。」
    ホームのスピーカーがそう告げた。そういうが早いか否か、列車の扉が開いた。瞬を含めた数少ない乗客は暗い線路に浮かぶその中に吸い込まれていった。
    すっかり日も落ちた頃、瞬を乗せた列車は街の灯りの間の暗闇を申し訳そうに、一定の速度で走っていった。

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